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ご相談増加中。「逆ハラスメント」「ハラスメントハラスメント」は他人事?

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近年、「ハラスメントハラスメント」におびえる上司や、「逆ハラスメント(部下からの攻撃)」に悩む管理職が増えており、弊社の相談室にもご相談が寄せられています。

今回のコラムでは、その背景にある問題や、対処法について考えていきます。

組織の崩壊を招きかねない「逆ハラスメント」

逆ハラスメントとは?
逆ハラスメントとは、部下から上司へのハラスメントを言います。
パワハラとは優越的関係をもとに行われる言動を指しますので、上司と部下などの地位の優越性だけではなく、経験値、社歴の長さ、学歴の差、年齢などのパワーバランスがあれば、それは優越的な立場を用いた言動と言えます。

相談室に寄せられた例を挙げてみましょう。
・上司の指示を無視する
・過剰な批判を口にする
・上司の評判を貶める言動を周囲に広める
・到底容認できない不当な要求をする
・大声で威嚇する
・挨拶を返さない
・上司の能力を否定し名誉を傷つける

こうした行為は上司の新たなストレスを生じさせるだけでなく、組織の崩壊につながるリスクとなります。

部下から上司への言動も「パワーハラスメント」に該当する
ここで改めてパワハラの定義をおさらいしてみましょう

『職場におけるパワーハラスメントは、職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの要素を全て満たすものをいう』
(令和2年厚生労働省告示第5号)

さらに特筆すべきは、この指針において逆パワハラも明記されています。

『同僚又は部下による言動で、当該言動を行う者が業務上必要な知識や経験を有しており、当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの』
『同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難であるもの』

以上のように厚生労働省は、部下による言動や部下からの集団による行為についてもパワハラに当たることがあると伝えているのです。

逆ハラが起きる理由
では、なぜ逆ハラが増えているのか考えてみたいと思います。

①「パワハラは上位者が行うもの」という思い込み
厚労省が公表した令和5年度の調査結果によると、パワハラ行為を行った者は、上司と役員を合わせ9割に上ります。
こうした調査結果がニュースなどで取り上げられ、行為者は上位の立場にある人たちというイメージが強く浸透しました。

パワハラ防止法が制定され、多くの企業はパワハラ防止について望ましい取組みとされる教育や研修を管理職に向けて積極的に導入してきました。

そのため、同僚や部下からの言動がパワハラにあたることを知らない労働者が多いことも原因として考えられます。

②「アサーションの揺り戻し」
近年のアサーション教育で「自己主張」の大切さが着目され、自己主張することが正しい行為として植え付けられたことも逆ハラが増加した要因となっていると思われます。

もちろん組織の中で自己主張し自分の意見や考え、状況を伝えることは、心理的安全性を醸成する上では重要なポイントです。けれどもそれにはルールがあります。

そもそもアサーションは、「適切な自己表現」が本来の目的です。
率直、対等、誠実、自己責任の4つの柱で行い、「あなたも私もOK」となる対話を目指すアサーティブコミュニケーションは、身に付けることで対人関係が豊かになり、ソーシャル・キャピタルや心理的安全性が高まります。

このアサーションという言葉だけが独り歩きし、他者への配慮なしになんでもかんでも自分の考えを主張することが正しいといった誤った理解を持つ人が増えてきたのも、要因のひとつと言えるのではないでしょうか。

③リーダーシップ像の変化
労働力の減少により複数の世代が協働する時代になり、世代による価値観の違いが顕在化しています。共感性を重視する若者世代と指示命令系統を大切にしてきた中高年の上司とは「価値観の相違」があります。
複数の世代に対応するには、新たなリーダーシップスキルが求められるようになりました。

これまでの「黙って指示に従え」といった上意下達だけのリーダーシップから脱却できないでいると摩擦や歪みがうまれ、組織の機能不全が発生するリスクとなります。

逆ハラは放置せず、組織で対応する

管理職やグループリーダーにとって、部下による強い反発、理不尽な要求、人格否定等の言動が発生すると新たなストレスが生じることになります。
また、その言動を放置すると組織全体の秩序の乱れに繋がります。

逆ハラに対処するには
逆ハラが発生した際には、下記のような対応が重要です。

①冷静でいること
部下からの逆ハラ行為を受けた場合、腹が立ったり、力で押したり、我慢したりと反応は様々でしょう。
売り言葉に買い言葉で対応しても良い結果は得られません。もっとも大切なことは冷静でいることです。
ハラスメントの基本は、5W1Hの記録を残すことです。日時、場所、言動などを冷静に具体的にメモを残します。

②逆ハラ行為者の言い分にも耳を傾け分析する
パワハラも逆ハラもコミュニケーションや相互理解の不足から発生します。
過重な労働はなかったか、不満や不平の原因はどうであるか、体調やメンタル不調の予兆はなかったか、話し合える状況であれば、部下の意見に耳を傾けます。
その際には、4つのヒのつく態度や言葉(否定、批判、比較、非難)に気をつけましょう。

③自分自身を振り返り改善点を見出す
部下の言い分を理解したなら、適切な対応を行うために自身の課題や改善点も挙げてみましょう。
世代に添わない価値観や理想、正義感や思い込みはないでしょうか。
言葉の遣い方は適切だったでしょうか。
部下に対する労いや感謝は伝えていたでしょうか。
対人関係は相互関係ですから、相手に対して何らかの負の刺激を与えていなかったか振り返ります。

④人事部と共有する
上記の対処法を全て行ったうえで、一人で抱え込まないことも大切です。
上位上司や人事部へ相談し助言や対処方法を訊ねます。
その際、これまでの客観的なメモ(記録)が役に立つでしょう。

モンスター化した部下に対して
時には部下の態度が通常の言動を逸脱し、過剰な態度を示すこともあるかもしれません。
例えば
「仕事上の問題に対して親や配偶者が抗議してくる」
「感情的になり過度な怒りを発散する」
「自分の言動がすべて正しいと固執し周囲の助言を受け入れない」
など。
こうした言動が見られた場合は、速やかに組織で対応します。

ハラスメントハラスメントを理由に部下指導を怠ることはかえってリスクを高める

部下への指導や教育、育成は上司の役割の一つです。部下は上司の指導で仕事に対する姿勢を学び、教育、育成でスキルアップを目指します。
部下のスキルが上がることで、チーム全体の生産性も高まり、上司への信頼感も醸成されていきます。

ハラスメントと言われるのが嫌だという理由で、部下との関わりを避け、マネジメントを放棄することはあってはなりません。

部下との信頼関係を築く
「あの部下は苦手だ」「以前、注意したら逆切れされた」「性格が合わない」「正直、好きでない」などの個人的な理由で部下を避けているとチームの雰囲気は悪くなり、コミュニケーションは低下します。かえってリスクを増やしてしまう結果になることもあります。

時には上司からの歩み寄りにより、関係の改善に至ることもあります。まずは、単純接触効果やネームコーリング効果から始めるのはいかがでしょうか。朝の挨拶から始まり、業務終了の際には労いの言葉で感謝を伝えましょう。
「お疲れさま」の挨拶の際には名前を呼び、誰に対してのメッセージなのかを伝えます。

上司はチームの心理的安全性を高めるキーマンです。
チームのロールモデルとなるよう、公平で誠実な態度を心がけましょう。

ハラスメントは自分が受けた言動が「不快」だったからと言う理由で判断されるものではありません。相手の言動により、人格や尊厳が傷つけられたか、一定の許容できない行為や脅威を与えられたか、そしてそのことにより不快な状況になっているか、で判断されます。

正しい知識を身に付け、相手の言動に巻き込まれず、冷静な態度で対応することが大切です。
管理職だけではなく、部下に対するハラスメント教育を行い、上司の役割、部下の役割、ハラスメントとは?について理解を深める具体的な教育を実施することが逆ハラ予防に繋がるでしょう。

 

筆者:パソナセーフティネット産業カウンセラー、公認心理師

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