研修

部下育成に心理学を応用する Part14 ~部下の成長を促す~

<

脳の短期記憶の容量は無限ではありません。新入社員は日々、覚えることが山積みですから、重要な情報を上手に発信していく必要があります。

「聞いていません」「覚えていません」と言われないよう、発信側には工夫が求められます。今回は、人の記憶に関わる「マジカルナンバー」について、解説して参ります。

部下が覚えやすいように発信を工夫する

部下の成長、育成、教育は上司の役割責任です。
プレイングマネージャーである管理職は、与えられた時間の中で自身の仕事をこなし、部下のマネジメントも行わなくてはなりません。
何度も同じことを繰り返し教えるには時間や労力が必要になり、負担もあるかと思います。では、どのような工夫があれば、部下のミスや失念を防ぎ、効率を上げられるでしょうか。
今回は、記憶とモチベーションについて考えていきたいと思います。

人の記憶は「短期記憶」と「長期記憶」の2種類

人の記憶には、保存される期間や容量が異なる長期記憶と短期記憶があります。

「短期記憶」と「長期記憶」の違い
・短期記憶は、数分から数時間情報を保持する能力です。人によって要領に差がありますが、およそ3~9個(マジカルナンバー)程度とされています。容量には限界がありますが、何度も聞いたり、繰り返し唱えることで長期記憶への転送も可能です。

・一方で長期記憶は、情報を数日から数年間にわたり、脳内に保持する機能であり、容量に制限がないとされています。子供の頃の思い出であったり、数十年前に旅行で訪れた景色を覚えているなどが長期記憶と呼ばれるものです。

人間の短期記憶には限界値があることを理解する

「ミスを防ぎたい」「正確に覚えてほしい」「集中してほしい」といった思いで、ついつい情報発信が多くなってしまう。そんな上司の熱い思いがかえって逆効果になってしまうことがあります。そこで、今回覚えていただきたいのが「マジカルナンバー」という認知機能です。

「マジカルナンバー」とは?
マジカルナンバーとは、人間が短期間に記憶できる物事の数量を表したものです。
米国の心理学者で、米国国家科学賞を受賞した、ジョージ・ミラー教授が1956年に「マジカルナンバー7±2」として提唱しました。
人間の短期記憶は容量として7個前後まで覚えられるとしたものです。
この7個は意味を持った「かたまり(チャンク)」の数ことで、単純に数字のように小さなもの、情報量の大きなものも同じように7個しか覚えられないというものです。

しかし、その後も脳科学の研究は進み、2001年に米国の心理学者ネルソン・コーワン教授が「マジカルナンバー4±1」を提唱しています。
人間の短気記憶には、限界があることを示すこうした研究や発見は、認知科学や脳科学に大きな影響を与えました。

ミラー教授、コーワン教授のそれぞれの主張は違いがありますが、こうした「マジカルナンバー」を意識して発信、提案し、エラーを防ぐことは、部下指導のヒントになると思います。現在ではコーワン教授の「マジカルナンバー4±1」が主流となっていますので、伝達の際には、多くても5つ、できれば4つ程度での発信が部下は記憶しやすいでしょう。

「かたまり(チャンク)」とは?
かたまり(チャンク)とは、短期記憶の容量をさらに効果的に活用する方法です。
例えば、
・指示出しの際の文章に段落をつけたり、箇条書きにし、文章に区切りをつけて覚えやすいようにする
・業務に必要な単語をカテゴリー分けし、そのかたまり(チャンク)の中で覚えやすいようにする
・長い数字は、かたまりに分ける工夫 0123456789の電話番号を012-3456-789と分けて覚えるなど
の工夫が大切です

部下指導に役立てる
例えば
・会議を開催する際は、議題・テーマは5つ以内で行う
・指示を出すときには、4つまでとする
・伝えたい情報に意味やテーマを持たせ、かたまり(チャンク)にして発信する
などがあります。
勿論、容量は個人差がありますから、部下の日頃の様子を観察して個数を決めましょう。

短期記憶から長期記憶へ
これだけは忘れずにいてほしいという情報は、長期記憶にしていくことが求められます。
長期記憶への転送は、「リハーサル」と言われる繰り返し作業です。
「頼んだ仕事を忘れる」「指示を覚えていない」などの困りごとが発生した時には、「相手の記憶容量を越えてはいないか?」「あきらめず、繰り返し伝達しているか」「情報発信に工夫をしているか」「メモを取らせているか」「的を射た伝え方をしているか」「確認をしているか」「復唱をしているか」など、自身の発信方法をふりかえってみましょう。

脳の取捨選択を利用する

カクテルパーティー効果とは
カクテルパーティー効果は、英国の認知心理学者エドワード・コリン・チェリーによって、1953年に提唱されました。「音声の選択的聴取」「選択的注意」とも呼ばれ、脳が処理できる情報量をコントロールするために音声情報を無意識に取捨選択する現象を指します。
雑踏や騒がしい環境の中にいても、自分の名前を聞き分けられたり、関心のある話題は聞き取れるといった機能です。

部下の動機づけに役立てる
部下のモチベーションを支え、前向きに業務に取り組んでもらうためには、興味関心に対する理解が求められます。興味がある話題や提案には自然と集中することができるからです。

マネジメントを行う上で、日頃の会話の中から部下が関心を示したこと、どのようなことに意欲を示すのか観察をします。
「こうしたことを考えているけれど、興味がありそうだね」
「今の話題には関心があるようだけれど、もう少し具体的にあなたの意向を話してもらえないだろうか」
「この仕事はインセンティブがつくけれど、興味があるよね」
などのアプローチで会話を深め、モチベーションにつなげていきましょう。

興味を高める「ウインザー効果」も活用する
興味関心を高める心理に「ウインザー効果」もあります。
ウインザー効果とは、第三者から発信された情報の方が信頼されやすいという心理効果です。
「上司の依頼した仕事は時間がかかるけれど、達成感は半端なかった」
「学ぶ必要はあるけれど、このスキルは将来の仕事に繋がるよ」
「上司が声をかけてくれるなんて、あなたへの期待があるんだね」
などの先輩からの一言はモチベーションに繋がるでしょう。
職場内の会話が活性化しているとこうした効果も期待できます。

上司からメンバーに声をかけ、チーム全体で若手社員の成長や育成をサポートする雰囲気づくり、話しやすい職場づくりを目指しましょう。

フットインザドアでスモールステップ

部下の成長を促し、学んだことを確実に習得してもらうには、様々な工夫が求められます。若手社員は失敗を恐れる傾向があると言われ、叱責や注意の仕方によっては心理的負荷が高くなることもあります。
そこで、フットインザドアの心理効果についても解説して参ります。

フットインザドアとは
フットインザドアとは、一貫性の原理、段階的要請法と言われ、小さな提案から大きな提案につなげていく方法です。
新しい業務を依頼する際、最小限の負荷のない提案から徐々に難しい課題を与えていくといった段階を踏むことで、相手の要求を受け入れるという心理です。

若手社員の育成には、承認が欠かせません。業務を細かく分別し、スモールステップでクリアができると称賛の機会が増えます。部下の自己肯定感は低下することなく、達成感も得られるでしょう。上司の叱責の機会は減り、部下に取っては、認めてくれる上司として信頼感が醸成されます。

今回も様々な心理効果について解説をして参りました。

日ごろから業務に追われている管理監督者の方のマネジメントに割ける時間には限りがあります。こうした心理効果を活用しながら、今よりプラスして部下成長に寄与できる、育成、教育、指導方法を見つけるヒントにしていただければ幸いです。

 

筆者:パソナセーフティネット産業カウンセラー、公認心理師

資料ダウンロード全27ページパワハラ防止法に対応!体制づくりに役立つ資料を無料進呈資料ダウンロード全27ページパワハラ防止法に対応!体制づくりに役立つ資料を無料進呈

矢印アイコン