こころとからだの健康

身体と心はつながっている?「身体化された認知」について考えてみました

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「直立姿勢はうつ病患者の感情と疲労を改善する」という研究があります。
根拠となる「身体化認知理論」は人の感覚と認知の関係に注目することにより、感覚が人の判断や行動に及ぼす影響について新たな説明を可能にしています。

身体と心はつながっている

良い姿勢とストレス耐性
人は姿勢を良くすることで、前かがみなどの悪い姿勢よりもストレス耐性が上がるというアメリカの研究があります。
これは、癒し系の脳内伝達物質である「セロトニン」と姿勢を維持するために大切な「抗重力筋」が影響し合っているからです。

セロトニン神経が弱まると抗重力筋の緊張も弱まるので、綺麗な姿勢を保つことが難しくなります。また、抗重力筋は顔の表情にも影響を与えるため、目元や表情がゆるみイキイキとした表情が失われてしまいます。

ある研究では、健康な人の正しい姿勢は自尊心や気分を改善することが示されています。日ごろから背骨を立て、抗重力筋を刺激してセロトニンの分泌を活発にすることで、ストレスを感じにくい状態を作ることができると言います。

抗重力筋以外にも脳は手先の神経系や背筋に繋がっているため、手を上に、目線を上方向に向けた方が気分が前向きになりやすいといった研究もあります。
(参考「直立姿勢はうつ病患者の感情と疲労を改善する」カリッサ・ウィルクス 1、 ロブ・キッド 1、 マーク・サガー 2、 エリザベス・ブロードベント 3)

直立姿勢で歩く効果
心理的ストレス要因に晒されたとき、猫背姿勢で歩くより、顔をあげ直立姿勢で歩く方が、ネガティブ感情、眠気、痛みが少なく、力強さをわずかに感じるなど、心理状態が著しく改善したという研究結果もあります。
(参考「ストレス時の歩行姿勢が感情と生理状態に与える影響」ジェシー・ハックフォード 1、 アンナ・マッキー 2、 エリザベス・ブロードベント 3)

目線を4~5㎝上げ、やや大股で一定のリズムを刻んで歩く有酸素運動は、「セロトニン」を活性化させることが分かっています。
「セロトニン」の分泌が増えることで気持ちが落ち着き、集中力が高まり、不安や抑うつ感なども改善されます。また、緊張がほぐれることで、「エンドルフィン」も分泌されますので、鎮痛効果や幸福感も得られやすくなります。
ストレス解消に取り入れてみてはいかがでしょう。

身体感覚と心理効果
感覚的なものも実は心理的な影響があります。
たとえば、硬い椅子に座っていると頑固さが増し、柔軟性が下がります。
重たいものを持っていると、抱えている仕事に対して「重大な案件を抱えている」と感じたり、重たいものを持ちながら相手と会話すると、相手を重要な人と感じやすくなったりします。
苦い飲み物や食べものを口にしながら、不正行為やマナー違反などのネガティブな話題に触れると、苦々しく厳しいジャッジになることもあります。

身体感覚が心に与える影響

触れる温度は気分に影響する
もう一つ、面白い研究があります。「脳の中の島皮質が物理的な温度と対人関係の温かさ情報の処理に関与していることが示された」というものです。
(参考:Science. 2008 Oct 24; 322(5901): 606–607.)

この研究では、参加者を温かい飲み物を持った群と冷たい飲み物を持った群に分け、ある人物と接触したのちの印象を聞いています。
温かい飲み物を持った群は、その人物に対して「より温かい性格」、寛大で思いやりがあると判断しました。
島皮質は身体が温かいと感じたときと心が温かいと感じたときの両方で反応することは知られており、身体の温かさと心の温かさを混同しやすいのです。

「冷え」についても同様で、身体が冷えると心の冷えを感じるため、人恋しくなったり、寂しいと感じたりするのです。

「温かさ」はその人を社会的に判断する際、親しみやすさや信頼性、安全、快適さに関連する概念であり、相手に対する好感度を左右する性格特性です。
相手との心理的距離を近づけたいとき、大切な話題を伝えるときなど、互いに温かな飲み物を用意するなどの工夫をすることで、受け止め方や印象がプラスになる可能性があります。

もしあなたが、仕事の上で難しい交渉を抱えているとしたならば、重い荷物を避け、更に交渉の場面設定の際に柔らかな椅子を選んだり、温かな飲み物を用意したりするなどの工夫も試してみる価値はありそうです。

笑い顔を作る
口角を上げ笑い顔を作ることで快感物質であるドーパミンの分泌が高まることが示されています。これは脳の錯覚を利用した方法で、脳は表情筋が動くことで「今は楽しい」「心地よい状態」と認識するからです。

笑いの効能については医学分野の研究が進んでおり、笑うことでナチュラル・キラー細胞(NK細胞)が活性化することも証明されています。
日本医科大学リウマチ科の吉野槙一教授によるリウマチ患者に落語を聞かせた実験や、ガン患者らに吉本新喜劇を見せ、その前後でガン細胞を直接攻撃するNK細胞の活性化を調べるという実験、また最近では糖尿病患者に漫才を聞かせて血糖値の改善を認めたという報告もあります。

さらに、「笑う」ことで、ドーパミンの分泌が促され、記憶効果を高めたり、作業手順を覚えたり、運動機能を高めるといった効果もあります。
大阪府立健康科学センターが行った笑いの頻度と1年後の認知機能との関連についての横断・縦断研究の結果、「ほぼ毎日笑う人」と「ほとんど笑わない人」では、後者のほうが1年後の認知機能の低下が大きいという調査結果もあります。

守秀子(2013):「笑う門には福来る」表情フィードバック仮説とその実験的検証,文化学園長野専門学校研究紀要,5,61⁻66.
健康長寿ネット:笑いと免疫機能・ストレスへの作用について
https://www.tyojyu.or.jp/net/topics/tokushu/warai-genki/warai-menekikinou.html
「笑いの医学的考察」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/warai/1/0/1_KJ00003258916/_pdf

「身体化された認知」の理論は哲学者、認知科学者、認知心理学者、認知神経科学者によって様々な検討がされてきましたが、それぞれの立場で異なる考えがあります。
まだまだ研究途上の新しい領域であるため、現象の頑健性が必ずしも明らかではない研究結果もあります。

どの研究に興味関心が持てたでしょうか。
筆者はよい姿勢を保つ、心理的ストレスを感じた時には直立姿勢でウォーキングする、不安を感じたときには大きなマグカップで温かなミルクや少し甘い飲み物を口にする、などを意識的に取り入れ、ストレス解消に役立てています。

 

筆者:パソナセーフティネット産業カウンセラー、公認心理師

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