こころとからだの健康
厚生労働省が、すべての事業所を対象として、ストレスチェックの義務化を検討
これまでは、50名以上の労働者を有する企業を対象として義務化となっていたストレスチェックですが、厚生労働省は、ストレスを抱える労働者への対策強化を目的として、全ての企業を対象としてストレスチェックを義務化する方針を示しました。
50名以下の事業所について、努力義務から義務へ
これまで努力義務であった50名以下の事業所においても、対象拡大に向けて、今後は労働政策審議会の安全衛生分科会で、ストレスチェックを定めた労働安全衛生法の改正案を議論することにしました。
精神障害による労災認定は増加傾向にあり、ストレスを抱える労働者への対策を強化することが目的です。
対象となる中小企業は?
総務省、経済産業省による令和3年の経済センサス-活動調査では、法人企業は約178万社であり、全体の94%が50名以下にあたります。
10名未満の法人は約75%であり、秘密保持の重要性もあり、ストレスチェックの実施については多くの課題もありそうです。
厚生労働省は、人数が少ない小規模事業所では、労働者のプライバシー保護などについてマニュアルを作成する予定としています。
努力義務で実施している中小企業は?
これまで50名以下の小規模事業所については、厚生労働省は「努力義務」としてきましたが、実際にストレスチェックを実施している50名以下の小規模事業所の数は、2022年度調査で全体の32.3%に留まっています。
新たに対象となる事業所は21年時点で約364万か所、労働者は2,893万人になります。
労働者が50名以下の小規模事業所においても、メンタルヘルスの不調や、精神障害による労災認定は増加傾向であり、早期発見、早期手当は喫緊の課題です。
また、小規模事業所では、産業医の選任義務がなくストレスチェックの実施体制が整っていない現状から、外部の専門機関を活用することが推奨されています。
改めてストレスチェックの理解を深めましょう
ストレスチェックとは?
ストレスチェックは、ストレスに関する質問票に働く人が回答し、それを集計・分析することで、職場のストレス要因、心身のストレス反応、周囲のサポートなどを調べる簡単な検査です。
「労働安全衛生法」が改正され、労働者が50人以上いる事業場では、2015年12月から、毎年1回、全ての働く人に対して実施することが義務づけられました。
ストレスチェック制度の流れは、下図の通りです。
ストレスチェック制度の目的とは
ストレスチェック制度の目的は二つです。
一つ目は、労働者のストレスの程度を把握し、労働者自身のストレスへの気づきを促すこと。
二つ目は、集団分析の結果を職場環境改善につなげ、働きやすい職場づくりを進めること。上記により、労働者がメンタルヘルス不調となることを未然に防止する一次予防を主な目的としています。
ストレスチェック制度の実施義務と罰則規定
労働者が50名以上の事業所では、2015年12月から毎年1回、この検査を実施することが義務付けられました。
未実施であっても罰則規定はありませんが、ストレスチェックと面接指導の実施状況を労基署へ報告することは必須であり、怠った場合は最大で50万円の罰金が課せられる可能性があります。
50名以上の従業員を有する企業にとっては義務のストレスチェックですが、労働者がストレスチェックを受けるか否かは本人の自由意思に委ねられています。
弊社が提供しているストレスチェックサービスでは、実施率は90%を超えています。
ストレスチェックは、自己では気づけない疲労やこころの変化に気づけるきっかけになります。
実際に高ストレス判定を受けた方から「自分では予想外の結果でした」「自覚がなかったので驚きました」というお声をいただくこともあります。
ストレスチェックの結果は誰が知り得るのか?
ストレスチェックの実施に当たっては秘密厳守が厳しく定められています。
ストレスチェックの実施者は、医師、保健師、厚生労働大臣の定める研修を受けた看護士・精神保健福祉士の中から選ばれます。
実施者を補助する者を実施事務従事者と言い、質問票の回収、データ入力、結果送付など個人情報を取り扱う業務を担当します。
実施者、実施事務従事者の選任は、外部委託も可能です。
ストレスチェックの結果は、労働者の同意なく実施者から事業者へ提供されることは禁じられています。(労働安全衛生法104条)
個人が特定されるおそれがない方法で実施される集団分析の結果についても、事業場内において無制限に共有するべきではないとされています。
また事業者は、本人の同意によって事業者に提供されたストレスチェックの結果を当該労働者の健康確保のための就業上の措置に必要な範囲を超えて、当該労働者の上司または同僚に共有してはならないものとされています。
ストレスチェックの活かし方
実施後のフォローとして、個別フォローと集団分析があります。
個別フォローは、「結果通知」「面接指導」です。
個別フォローは、本人にその結果を通知し、自らのストレスの状況について気づきを促し、個人のメンタルヘルス不調のリスクを低減させることで増悪を予防します。
集団分析は、検査結果を集団的に分析し、職場環境改善につなげることによって、労働者がメンタルヘルス不調になることを未然に防止するとされています。
ストレスチェック制度を利用した職場環境改善を行うには、PDCAサイクルの各ステップで検討する必要があります。
厚生労働省は、マニュアルの中で、改善主導型を3つの方式に分けて解説しています。
① 経営層主導型 ②管理監督者主導型 ③従業員参加型
それぞれの方式でメリットデメリットがありますので、それぞれの特徴を理解し、職場に合った方式を選びます。
各方式については、厚生労働省がマニュアルを策定しています。
これからはじめる職場環境改善~スタートのための手引き~
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000055195_00011.html
ポジティブに職場環境改善を行うために
集団分析で、自身の部署が「ストレスが高い」と判定をされた管理監督者は、結果を成績表のように感じ、ネガティブに受け止めてしまうことがあります。
そのため、管理監督者に前向きに取り組んでいただけるよう工夫が必要になります。
・部署の強みも分析し、その強みに着目し、ポジティブな要素を伸ばす活動を進める
・他の部署の良い習慣や工夫を共有し取り入れる
・ディスカッションを通じて悩みや困ったことなどを共有し、管理監督者のストレスの軽減も視野に入れる
・厚生労働省が作成した職場環境改善のためのヒント集を活用する
・職場の状況に合わせ、取り組みやすい時期やタイミングを提案し、無理のない範囲を設定する
など参考になさってください。
今後ストレスチェック制度の導入をお考えの事業所へ
厚生労働省は、ストレスチェック制度の導入マニュアルを策定し公表しています。
「ストレスチェック制度 簡単!導入マニュアル」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/pdf/150709-1.pdf
ご一読ください。
また、弊社でもストレスチェックサービスをご提供していますので、お気軽にお問い合わせをいただければと思います。
ストレスチェックサービスはこちら
参考:ストレスチェック制度等のメンタルヘルス対策に関する検討会 中間とりまとめ案
https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/001314987.pdf
筆者:パソナセーフティネット産業カウンセラー、公認心理師