こころとからだの健康
デジタル(スマホ)認知症が増えている!?~依存症は年齢、性別に関係なく発症します~
毎日当たり前のように使用するようになったスマートフォンやパソコンですが、
「明確な目的がなくてもつい見てしまう」
「LINEやSNS、Xなど見ずにはいられない」
「外出時に忘れたら絶対取りに帰る」
「突然、スマホが壊れたらパニックになる」
そんな人も少なからずおられるのではないでしょうか?
スマホと脳疲労
スマホ依存からスマホ認知症へ
スマホの普及率について、NTTドコモ モバイル社会研究所が2022年に調査結果を公表しています。調査委によると、日本のスマホ比率は94.0%に達しています。
このように、多くの人が気軽に使えるようになったスマホですが、暇つぶしに便利、楽しい、友人との付き合いに必要、話題に遅れたくない、情報の収集に便利、などの理由から依存性が高いことも知られるようになりました。
スマホの使用は習慣化しやすい
社会心理学者アダム・アルター氏の調査に、成人の60%が就寝時にもスマホをそばに置いており、半数は夜間にもメールチェックしている、という結果があります。
スマホ依存の原因の一つに、報酬系のドパミンの分泌があります。
脳は、新しい情報が簡単に手に入れられることで快楽物質であるドパミンを分泌します。脳は快楽をもっと得ようとするため、やめられなくなってしまうのです。
また、スマホを置いてしまうと「大事な何かを見逃してしまうのでは?」という不安の心理が起き、こうした不安から依存を招きます。
アップル創始者のジョブズは依存性の高さに気づいており、自身の息子には14歳まで電子機器を与えなかったのは有名なエピソードです。
MMD研究所が18歳から69歳の男女10,000人を対象に実施した「2024年スマホ依存に関する定点調査」によると、スマホ依存の自覚は、「かなり依存している」「やや依存している」を合わせると62.5%、スマホがないと「困る」は81.1%でした。
(参考:MMDLabo株式会社 MMD研究所 2024年「スマホ依存に関する定点調査)
スマホの習慣化は脳疲労を引き起こす
スマホやPCの使用により、脳はその情報を処理するためにフル回転しています。けれども、朝起きたときから就寝直前まで、スマホを使用している人は少なくないため、回復する時間が減少します。
毎日スマホに頼った生活を続けていると休んでも疲れが取れない「過労」状態を起こし、脳疲労は慢性化してしまいます。
脳のどこに脳疲労が生じるのでしょう
脳疲労に陥ると脳の中の部位、前頭前野の機能が低下します。
前頭葉は「脳の司令塔」。コミュニケーションや判断力、意思決定、記憶、感情のコントロールと関係があります。
脳のなかでも特に高度な情報処理を行っている部位と言えます。
脳疲労から認知症の症状へ
脳疲労が続くと、以下のような症状が出ることが知られています。
スマホを常に手放さず、常に画面に意識がいっている方がおられたら、以下のことを振り返ってみましょう。
①注意力が散漫になりミスを誘発する
例:約束をうっかり忘れる、物忘れが多くなる、些細なミスが増える
②感情のコントロールが利かなくなる
例:攻撃的になる、イライラする、キレやすい
③思考力や判断力など認知機能が低下する
例:決断力がにぶり物事が決められない、ぼんやりして思考力が低下
④自律神経の乱れ
例:頭痛、めまい、冷えやのぼせ、睡眠の不調、便秘や下痢、腰痛、頚椎痛、など
思いあたる症状があれば、次の項目でスマホ依存度チェックを掲載していますので、チェックしてみましょう。
あなたは大丈夫?
2022年1月よりICD-10(WHOが作成した病気診断の世界的共通基準)では、以下の内容が診断基準となります
スマホ依存度チェックについて
インターネット依存度テストは、米国のキンバリー・ヤング博士によって開発されました。
各質問の1~20について、全くない1点、まれにある2点 ときどきある3点、よくある4点、いつもある5点、で計算します。
利用する機器は、パソコン、携帯電話、スマホ、ゲーム機などオンラインで使用するすべてを含みます。
質問
1.気がつくと思っていたより長い時間インターネットをしていることがありますか?
2.インターネットをする時間を増やすために、家庭での仕事や役割を疎かにすることがありますか?
3.配偶者や友人と過ごすよりも、インターネットを選ぶことがありますか?
4.インターネットで新しい仲間を作ることがありますか?
5. インターネットをしている時間が長いと周りの人から文句を言われたことがありますか?
6. インターネットをしている時間が長くて、学校の成績や学業に支障をきたすことがありますか?
7. 他にやらなければならないことがあっても、まず先に電子メールをチェックすることがありますか?
8. インターネットのために、仕事の能率や成果が下がったことがありますか?
9. 人にインターネットで何をしているのか聞かれたとき防御的になったり、隠そうとしたことがどれくらいありますか?
10. 日々の生活の心配事から心をそらすためにインターネットで心を静めることがありますか?
11. 次にインターネットをするときのことを考えている自分に気がつくことがありますか?
12. インターネットの無い生活は、退屈でむなしく、つまらないものだろうと恐ろしく思うことがありますか?
13. インターネットをしている最中に誰かに邪魔をされると、いらいらしたり、怒ったり、大声を出したりすることがありますか?
14. 睡眠時間をけずって、深夜までインターネットをすることがありますか?
15. インターネットをしていないときでもインターネットのことばかり考えていたり、インターネットをしているところを空想したりすることがありますか?
16. インターネットをしているとき「あと数分だけ」と言っている自分に気がつくことがありますか?
17. インターネットをする時間を減らそうとしても、できないことがありますか?
18. インターネットをしていた時間の長さを隠そうとすることがありますか?
19. 誰かと外出するより、インターネットを選ぶことがありますか?
20. インターネットをしていないと憂うつになったり、いらいらしたりしても、再開すると嫌な気持ちが消えてしまうことがありますか?
判定
20~39点 平均的なオンラインユーザー
40~69点 インターネットによる問題があります。あなたの生活に与えている影響をついてよく考えましょう
70~100点 インターネットがあなたの生活に重大な問題をもたらしています。受診の検討をしましょう
スマホ学習とスイッチング
スマートフォンの通知機能は、スイッチングを引き起こす
心理学用語に「スイッチング」という概念があります。
スイッチングとは、「何かに集中しているときに妨害が入り、別のことをやり始めること」が「何度も」繰り返され、一つのことに集中する時間が極端に短くなる現象」を指します。
日本の脳機能研究の第一人者である東北大学の川島教授は、スマホ使用とスイッチングの関係に警鐘を鳴らしています。
川島教授は、「スイッチングの問題については、スマホが普及する以前、SNSが出てきた頃にアメリカで指摘され始めました。多くの大学生の症例を調べた結果、勉強中にフェイスブックなどのSNSとスイッチングしている人は学力が低下傾向にあり、うつ状態にもなりやすいことが分かったのです。
MRIで子どもたちの脳の発達を調べる研究では、スマホやタブレットを使う習慣が多い子どもたちは脳の発達が止まることがはっきり証明されています。実際、3年間にわたりほぼ脳が発達しない状態が続いているケースもあるのです。」と言います。
スマホで学習する際は、スイッチングが起きない環境づくりが大切とし、専用タブレットの使用や、他の電子機器から分離した環境で学習することを勧めています
スマホ認知症を予防する
デジタルデトックス
スマホ認知症の治療法は、完全には確立されていませんが、長時間の使用が脳に悪影響を与えることは分かっています。とは言え、パソコンやスマホを全く使用しないで過ごすことは、もはや不可能な社会になりました。
そのため、いかに使用を控えるか、何を避けるべきなのかという観点から考えていきます。
①就寝前の2時間前には使用をやめ、寝室には持ち込まないようにしましょう
(スマホのブルーライトは網膜を通過し、脳に直接刺激を与えることが分かっています。ブルーライトは睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌を抑制します。そのため、就寝前のスマホの使用で入眠が困難になったり、睡眠の質が低下します。
睡眠不足は脳の回復を阻害しますので、睡眠時間の確保は非常に大切です)
②本当必要な状況のときに活用し、ながら使用は控えましょう
③使用時間を限定し、長時間の使用は避けましょう
スマホの長時間使用についてはリスクも伴うことが脳科学の研究からも次第に明らかになってきました。
上手に使用すると大変便利なスマホですが、便利さは諸刃の剣になることがあります。手間のかかること、面倒くさいと思えることには案外価値があることもあります。
ご自身を振り返るきっかけにしていただければ幸いです。
筆者:パソナセーフティネット産業カウンセラー、公認心理師