こころとからだの健康
「シニア世代のキャリア」~人生100年時代に向けて今からできること~
労働人口の減少で70歳定年法が努力義務となり、働くシニアは増加しつつあります。これまで想定していた就業期間が大幅に延びることとなり、シニア層はご自身のワークとライフのバランスをどのように捉え、考えていくか、価値観の見直しを迫られる時代になりました。
変化する労働人口の推移
総務省が2024年1月に公表した日本における高齢者人口は29.2%となり、総人口に対する20~64歳の割合は55%。現役で働く人々は人口の約半分しかいない状況になりました。
70歳定年法が努力義務に
日本の総人口は2008年をピークに減少し続けています。2025年には団塊世代が75歳以上となり、4人に1人が後期高齢者という超高齢化社会が到来します。
国は労働人口の確保に向け、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」を定め、企業に65歳までの雇用確保を義務付けるとともに65歳から70歳までの就業機会を確保するための施策を講じることを努力義務としました。
出典:総務省統計局
このようにシニア世代に対して労働力の提供を求める社会の変化や人生100年時代と言われる寿命の延長、健康意識の高まりなどでアクティブシニアが増加し、今後もますます働くシニアは活発になっていくのではと思われます。
あなたは70歳を過ぎて働きたいと思いますか?
リクルートマネジメントソリューションズのオンラインアンケート調査「一般社員の会社・職場・仕事に関する意識調査第2回」『70代以降も働きたい人』についての分析結果によると、60~64歳では25%、65歳~69歳では59.7%の人が「もっと働きたい」という意欲があることが分かりました。
出典:リクルートマネジメントソリューションズ 「一般社員の会社・職場・仕事に関する意識調査第2回」
働き続けるモチベーションとリソース
では、こうした仕事へのモチベーションを持ち続ける要因はどのようなものなのでしょうか。リクルートマネジメントソリューションズは、同調査の1回目を分析し、
『45~59歳は「モチベーション・リソースにフィットした仕事に就いている人ほど、長く働きたいと思っている」という仮説がおおむね正しいと考えらる。モチベーション・リソースが満たされているほど、長く働きたい傾向がある。』
と示しています。
モチベーションリソースを高める要素として、
・今の仕事は自分の成長に繋がると思う
・今の仕事は顧客や社会に価値を提供することに繋がると思う
・今の会社の理念やビジョンに共感している
・従業員が必要な能力やスキルを身につけるための制度や仕組みが整っている
・今の年収に満足している
などが挙げられると調査結果で示唆しています。
個を尊重する聴き取りが就業意欲を高める
モチベーションリソースは、同世代でも個人によって違いがあり、一人ひとりが大切に感じる価値観は様々です。
実際に筆者が受けた人事ご相談者からのご相談では、
「定年延長の再雇用で、同条件を提示しても、働き続ける人もいれば、退職を希望する人、期間前に退職してしまう人もいる。働いてほしいと思い確保した人材が離職してしまうのはどうしたらいいでしょうか?」
というお悩みがありました。
働く意欲を高めるには、個人の事情や希望をしっかり聴き取ることが大切です。
どの様なリソースを求めているのか、モチベーションの源泉は何なのか?
本人がやりたいことに近づける働き方や制度はあるのか、さらなる成長を促せるのか、こうした対話を進めることが離職を予防するヒントになると思います。
現在の仕事の特徴や企業ビジョン、定年後の収入などモチベーションリソースがフィットしていないと新天地を求めて退職を選択する方もおられるでしょう。
元気で就労してもらうために
企業の取組み
HR総研が2021年に実施した「シニア活躍支援に関するアンケート調査結果」によると、同僚や上司がシニア人材に対して持つ悩みや課題として最も多いのは、「健康面の不安がある」で42%でした。
年齢とともに健康面の不安が増してくるのは当たり前のことですが、協働する組織に取っては無視できない課題となります。
調査結果によると、企業の対策として、「定期的な本人への健康状態の確認」が40%、次いで「肉体的に無理のない勤務場所・勤務内容の提供」が24%、「勤務時間の短縮」が17%でした。
図引用:HR総研 シニア活躍支援に関するアンケート調査結果
シニア自身のマインドセットを!
加齢による心身の機能低下については、食事や生活環境の変化により、今までより5~10年程度遅れる傾向があるとして、日本老年医学会、日本老年学会が高齢者を75歳以上へ定義し直す提言を政府に行いました。
とは言え加齢による影響は多かれ少なかれ誰しもが経験することです。
長く働くためには、これまでのセルフケアからさらに一歩進んで、加齢による身体変化やリスクに対応できる対処法を身につけ、順応していくことが健やかに働くための基本となります。
そのためには「自分はまだまだ若いつもり」「若い者には負けない」価値観を見直し、マインドセットしていくことが求められます。
加齢によるリスクを正しく理解する
加齢による身体の変化は様々です。数10年ぶりに同窓会などに参加し、加齢の違いの大きさに驚いたご経験はないでしょうか?
これまでの生活習慣や体質、遺伝なども影響し個人差が出てきます。
ここでは一般的な高齢者の身体変化を図にしてみました。
ご自身の生活機能と擦り合わせてみましょう
高齢者のリスク「フレイル」とは?
フレイルとは、加齢による心身の老い・衰えに伴い、体重の減少、歩行速度や筋力の低下、疲れやすい、やる気が出ないといった状態を指し、健康な状態と要介護状態の中間の段階を指します。
フレイルの種類は3つ
①身体的フレイル
運動器の障害で移動機能が低下したり(ロコモティブシンドローム)、筋肉が衰えたり(サルコペニア)するなどが代表的な例です。高齢期になると、筋力は自然と低下していきます。
②精神・心理的フレイル
高齢になると喪失体験が増えます。仕事を失う、パートナーを失う、親を失う、健康を損なうなどで引き起こされる、うつ状態や軽度の認知症の状態などを指します。
③「社会的フレイル」
加齢に伴って外出の機会が減少したり、コミュニケーションの機会が減ったり、社会とのつながりが希薄化することで生じる、独居や経済的困窮の状態などをいいます。
これら3つのフレイルが連鎖していくことで、老いは急速に進みます。3つのどれがきっかけとなるかは個人差がありますが、こうした「老い」の状態は身体だけの問題ではありません
フレイルを予防する
フレイルには「可逆性」という特性があり、自分の状態と向き合い、予防に取り組むことでその進行を緩やかにし、健康に過ごせていた状態に戻すことができます。
参考:東京都医師会 フレイル予防 より筆者が作成
「老い」は個人差が大きく、本人の努力で変化します。
進行を緩やかにするために、早くから準備を行い、適切な生活習慣を維持していきましょう。そのためには、マインドセットを含む教育、リテラシーの向上が大切です。
フレイル予防は、従業員自身のためはもちろんですが、生産性の維持、事故の未然防止、
動機づけに大切です。
シニア社員の健康リスクを減らすためにも組織で取り組みましょう
人生100年時代となり、いくつまで働くのか、どのようなシニア生活を送りたいのか、ワークとライフのバランス、モチベーション・リソースなどにkついて解説してまいりました。
定年の時期、定年後の生活などご自身の将来を考察するには、早すぎるということはありません。現状の認識を高め客観的な視点でこれまでの職業生活を振り返り、自分はどうしたいのか、自分のキャリアをどう捉えるか、マインドセットを行うことで具体的なイメージが持てるでしょう。
いつまでも元気に社会参加するための基礎となるのは、何といっても「健康」です。
ご自身の加齢のリスクをしっかり理解し、体力に合わせたこれからをお考えいただければ幸いです。
参考:リクルートワークス研究所「高齢者の社会参加の実態を探る」
https://www.works-i.com/research/project/futureofwork/kourei/detail001.html
朝日新聞「リライフネット」定年後のセカンドキャリア 見つけ方や成功のコツを実例とあわせて紹介
https://www.asahi.com/relife/article/14855761
チューリッヒ生命「シニアのワークライフバランスに関する調査」
https://www.zurichlife.co.jp/aboutus/pressrelease/2018/20181015_02
株式会社リクルート「データから見る「70代以降も働きたい人」とは?【一般社員の会社・職場・仕事に関する意識調査】第2回
https://www.recruit.co.jp/sustainability/iction/ser/ot/0813.html
リクルートマネジメントソリューションズ一般社員の会社・職場・仕事に関する意識調査 第1回「働く人の「モチベーション・リソース」を科学する」
https://www.recruit-ms.co.jp/issue/column/0000001204/
東京都医師会 フレイル予防
https://www.tokyo.med.or.jp/citizen/frailty
筆者:パソナセーフティネット産業カウンセラー、公認心理師