こころとからだの健康
セルフケア ~熱中症を予防する~
「災害級の暑さです」というコメントがニュースから流れ、熱中症警戒アラートが環境省から発表されるなど、近年の夏の暑さは命にかかわるようになりました。
暑いからと言って仕事を休むわけにはいかない労働者は、自身の健康は自身で守らなくてはなりません。
熱中症対策についてまとめてみました。
環境省は令和6年4月24日から「熱中症特別警戒アラート」の運用を開始
近年の気候変動の影響から、熱中症による救急搬送人員は数万人を超え、死亡者数も高い水準が続いています。
こうした状況を踏まえ、令和5年の気候変動適応法の改正により「熱中症警戒アラート」が「熱中症警戒情報」として法的に位置づけられ、更に深刻な健康被害が発生しうる場合に備え「熱中症特別警戒情報」(熱中症特別警戒アラート)が創設されました。
熱中症から身を守るために
気象庁は気象情報を通じて熱中症対策の一翼を担い、情報の発信をしています。
「熱中症から身を守るために」
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/kurashi/netsu.html
また厚生労働省においても「職場における熱中症予防情報」のサイトを開設し、注意を呼び掛けています。
https://neccyusho.mhlw.go.jp/
熱中症の理解を深めましょう
熱中症の原因
熱中症になる原因は、本来人間に備わっている体温調節機能がうまく働かなくなることです。熱中症には大きく分けて4つの原因があります
①高温、多湿、無風、太陽光や機械などからの放熱などからくる総合的な蒸し暑さ
②暑熱順化が間に合わない、つまり体が暑さに慣れていないことで体温調節がうまくいかず、身体に熱がこもり熱中症になりやすい
③水分不足、塩分不足
④長時間にわたる連続作業。適宜、休憩をとらず暑い環境で働き続けると熱中症リスクが高まります。特に、建設業、製造業、運送業、警備業では死亡者、4日以上の休業者、業務上疾病者の数が多くなっています
熱中症を予防する
熱中症予防のポイントと応急手当について解説して参ります
(参考:厚生労働省HPより)
暑さ指数(WBGT)を利用し低減しましょう
環境省は暑さ指数(参考値)を公表しています。
下記の図のような場合、気温は同じでも最小湿度の違いでWBGTは9日の方が高くなります。
気温だけで判断するのではなく、こうしたWBGTを確認しましょう。
参考:熱中症予防サイト
暑さ指数が33以上になると熱中症になるリスクが極めて高くなります。
35以上になると人の健康に重大な支障が生じる状況となるため、特別警戒アラートになります。
暑さ指数は指数計で測定が可能です。建設現場、警備現場などは指数計で測定すれば現場のピンポイントのWBGTが分かります。
暑さ指数の指数計はJIS規格に適合した黒球付き指数計で測定しましょう。
暑熱順化
体が暑さに慣れていると、すぐに発汗が起き体温を下げるため熱中症になりにくくなります。暑熱順化が遅れ汗が出ない状況では塩分が多い汗が出ることが分かっています。
初めて現場に出る人、久しぶりに現場に出る人、長期の休暇をとっていた人などは、身体が現場に慣れていないため、要注意です。慣れるまでは作業時間を短めに設定したり、こまめな休憩を取ったり、休憩時間を長めにとるなど、暑さに徐々に慣らしていきましょう。暑熱順化の目安は2週間程度です。
水分・塩分の同時補給
水分不足のときに一気に大量の水分を取ると体内の塩分と水分のバランスが崩れ、体調不良を引き起こすことがあります。
汗をかいた分の補給を意識して行います。汗と同じような成分の補給が大切です。
水分と塩分の同時補給は水ではなく、スポーツ飲料など塩分の入っているものが良いとされています。目安は30分ごとにコップ一杯(200ml)です。脱水を起こしている場合は、経口補水液を飲むのが良いとされていますから、職場で準備しておくのもよいでしょう。
飲む目安量は500から1000mlを目安に無理のない早さで補給しましょう。水分を取らずに塩飴だけ舐めても効果はありませんので要注意です。
異常に気づいたら
熱中症の重症度分類
Ⅰ度(軽症):意識ははっきりしているが少し様子がおかしい
めまい・立ち眩み、生あくび、大量の発汗、筋肉の硬直(こむら返り)
対処:冷所で安静、体を冷やす、水分塩分補給を行い一人にしない(見守りを置く)。医療機関等、状況次第で連絡をする。
Ⅱ度(中等症):あきらかに様子がおかしい
頭痛、吐き気、だるい、イライラしたりフラフラしたり、ボーッとしている
対処:手当てが遅れると重症化のリスク。症状が出るまでの状況を把握している人が付き添い、医療機関を受診する。
Ⅲ度(重症):意識がない、危険な状態
けいれん発作、身体が熱い、意識障害をおこしている、意識がない
対処:119番通報 救急車到着までできる限り涼しい場所や日陰に移動し水をかけて身体を冷却する。
水道水散布法を行う
人間は体温が40℃以上の状態が30分以上続くと死に至るおそれがあります。
その状態で医療機関に搬送されても手遅れになる場合があります。そのため一刻も早く体温を下げる必要があります。いかに早く体温を下げられるかで命にかかわる状態から死亡のリスクを軽減できます。
作業着などを着用している場合は脱がせ、たっぷりの水を胸から膝にかけてかけ続けます。水が使えない作業場では、氷などを使い体温を下げたり、氷水でタオルを濡らし温まったら交換しながら冷やし続けましょう。
救急車が到着したら発症までの経緯を説明し医療機関に同行しましょう。
日ごろから気をつける熱中症対策
熱中症は1人ひとりの日々のセルフケアでも予防できます。日常生活で気をつけられることを取り入れましょう。
アルコールは控えめに
アルコールには利尿作用があります。摂取した水分より多くの水分が排尿により失われてしまうため、脱水になりやすいと言われています。
特にビールは利尿作用が強い飲料ですから、翌日に暑い作業や長時間の外出などを控えている場合は、飲酒を控えることが大切です。
ぐっすり眠る
水分不足になると体温調節がうまくできず熱中症リスクが高まります。また寝不足の脳は、集中力や瞬発力が低下しますから、暑さと相まって作業ミスのリスクも高まります。
朝ごはんを食べる
朝ごはんは三食の中でも特に重要です。食事からも水分・塩分が摂取できるので、朝食は必ず摂りましょう。
朝ごはんは夜の睡眠のスイッチを入れてくれる体内時計をリセットします。睡眠の質や量を担保するためにも朝食は必要です。
暑さに慣らす
適度な運動や入浴習慣で徐々に暑さに慣らしましょう。暑熱順化を行うことで発汗が促され、熱中症の予防になります。
年齢リスクを知る
年齢とともに身体の水分量は減少し、高年齢者では50%になります。
また暑さや喉の渇きなどに対する感覚機能の低下が起きます。身体の調整能力の低下により身体へ熱がこもりやすくなり、心臓や血管などへの負担が大きくなります。
熱中症の死傷者数の半数以上が50歳以上です。
既往歴にも注意
熱中症リスクの高い疾病をお持ちの方は特に注意が必要です。
糖尿病:喉が渇き、多飲多尿になるため、脱水状態になりやすい
高血圧:利尿剤を内服している人は既に脱水状態
心疾患:血管拡張薬を内服している人は、軽度の脱水でも高リスク
腎不全:暑くても汗をかきにくいため、環境や行動の調整が必要
皮膚疾患:広範囲に広がっている場合は汗を上手にかけないことがある
神経疾患:自律神経に影響がある薬を服用していると発汗や体温調整機能が低下する
上記の持病がある人は、主治医、産業医に業務内容を伝え相談をしましょう。
熱中症が発生すると生産性・業務の質は下がります。医療費や代替人員の手配が必要となり周囲の負担も増加します。
熱中症から従業員を守る取り組みは、労働者のモチベーションを向上させ、生産性、業務の向上に繋がります。
熱中症予防の取組は労働者一人ひとりの予防意識も大切になるため、教育を実施し、全社一丸となり予防対策に取り組みましょう。
参考:厚生労働省 働く人の今すぐ使える熱中症ガイド
https://neccyusho.mhlw.go.jp/download/
環境省 熱中症予防サイト
https://www.wbgt.env.go.jp/wbgt_ex.php
環境省 熱中症環境保健マニュアル改訂版 2022
https://www.wbgt.env.go.jp/pdf/manual/heatillness_manual_full.pdf
筆者:セーフティネット産業カウンセラー、公認心理師