こころとからだの健康

アルコールとセルフケア:7月22日~7月28日は肝臓週間です

2024/07/01
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暑い日が続くようになり、ビールなどのアルコールで涼をとる人も増えてくるのではないでしょうか。
7月22日から「肝臓週間」が始まりますが、肝臓とアルコールは深い関係にあります。今回のコラムでは、アルコールを嗜む上で、ぜひ覚えておいていただきたいことについて解説してまいります。

飲まれる人も飲まない人もぜひ「豆知識」として覚えていただければ幸いです。

肝臓とアルコールの関係

肝臓は沈黙の臓器
肝臓は沈黙の臓器と呼ばれ、自覚症状がないまま疾患が進むことはある程度知られています。肝臓の疾患の要因とされるものの一つにアルコールがあります。

多量飲酒や習慣飲酒は肝臓に中性脂肪を蓄積させ、アルコール性脂肪肝やアルコール性線維症を招きます。進行するとやがて肝硬変などの命にかかわる障害を引き起こすことがありますから、肝臓をいたわり適正量を守って飲酒することがとても大切です。

肝臓の働き
肝臓は食事から得た栄養分を貯蔵したり、アルコールや薬剤、老廃物を分解・解毒する役割を担っています。また胆汁を分泌し、脂質の消化を促進するなど多くの生命維持に関わる働きをしてくれています。
内臓の中でも最大の大きさがあり、成人男子では平均1.2キロもあります。

アルコールを上手に嗜むために心がけたいこと

肝臓を守りながら、美味しくアルコールを楽しむためには守らなければならない条件があります。
厚生労働省もガイドラインを作成していますので、ガイドラインを参考にしながら、上手にアルコールと付き合っていく方法を学んでいきましょう。

厚生労働省の「飲酒ガイドライン」
お酒は飲み過ぎると健康への影響が心配されます。
厚生労働省は適切な飲酒量の判断に役立ててもらうため、「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」を公表しました。

ガイドラインでは、アルコールを「何杯飲んだか?」で把握するのではなく、「純アルコール量」で正確に知ることが大切としており、計算方法を示しています。
健康リスクを高める飲酒量を「純アルコール量」で測り、男性は40g、女性は20g以上摂取した場合としています。1回の飲酒で60g以上摂取すると急性アルコール中毒のリスクが高まる可能性を示しています。

アルコールの影響
アルコールの身体への影響は、年齢や性別、体調により違いがあります。
高齢者は体内の水分量の減少で酔いやすく、女性は分解できるアルコールの量が男性に比べ少ないことや、女性ホルモンの働きでアルコールの影響を受けやすいことが知られています。
また、体質の違いにより、アルコール分解酵素の働きに強弱があります。

あなたやあなたの周辺に、飲むと顔が赤くなったり、動悸や吐き気がする人はいませんか?こうした反応は「フラッシング反応」です。こうした分解酵素の分泌が少ない人は日本人の41%に存在するといわれています。

「フラッシング反応」のある人が長年飲酒を続けると飲めるようになることもありますが、口腔がんや食道がん等のリスクが非常に高くなるデータがあります

適正量を計算してみましょう

例えば、ビールのロング缶であれば、500ml×アルコール度数は0.05×アルコール比重0.8で「純アルコール量」は20gになります。
チューハイでは、350ml缶×アルコール度数0.07×比重の0.8で20g。
ウイスキーでは、ダブルの水割り1杯(原酒で60ml)で20gの計算です。
15%の日本酒なら1合弱であり、12%のワインは小ぶりのグラス2杯(200ml)で20gとなります。

アルコールの影響がリスクになる場合について

疾病や服薬のある人
病気等で療養中の人は、飲酒により免疫力が低下したり、感染症に罹りやすくなるなどのリスクがあるとガイドラインで示しています。
また、服薬後の飲酒は薬の効果が弱まったり、副作用が生じることがあるとし、主治医に相談することを推奨しています。

他人への飲酒の強要
相談室にも寄せられるアルハラの事例から見ていきます。

会社の忘年会で上司や先輩から「もっと飲もうよ」「飲まないの?」「早くグラスを空けたら?」などの言葉をかけられ辛かった。同僚同士の飲み会で「イッキしよう」などの声が上がり、飲みたくないのに断れずに困った。
ハラスメント予防が浸透し、以前と比べるとこうした事例は減少した印象はあるものの、強制的とも受け止められる飲酒の勧めはゼロではありません。

先に記載したようにアルコールの分解酵素の強弱は個人差があります。飲めない人、飲みたくない人へのアルコールの勧めは、飲酒にまつわる人権侵害であり、アルコール・ハラスメントと受け止められることもありますから要注意です。

自分の限界量を知らない人
「泣き上戸(じょうご)」「説教上戸」「愚痴上戸」「からみ酒」。お酒の酔い方は千差万別ですが、周囲から敬遠される飲み方は避けたいものです。

泥酔してしまい前日の記憶がない、気が付いたらホームで寝ていた、酩酊して階段から転落した、目が覚めたら病院に搬送されていた、などの飲み方は、もはや酒癖が悪いだけでは済まされず、命にかかわるリスクもはらみます。

自分の限界量を知り、お酒は自分自身も周囲の人も楽しく嗜むことを心がけましょう。
厚生労働省ガイドラインに示された「適正量」を守ります。

アルコールは嗜癖から依存症へ
アルコールは日本では合法的な薬物です。脳や身体に影響を与え、アルコールの依存性は他の薬物を凌ぐとも言われています。
大量飲酒を続けるとアルコール依存のリスクが高まります。
上記のような酩酊の状況を経験した人は、ご自身を振り返りましょう。

WHO(世界保健機関)では、アルコール依存症の診断基準を定めています。
上記の質問に対して、過去1年間に6項目中、3項目以上に当てはまる場合に、アルコール依存症と診断されることがあります。
さらに詳しいセルフチェックを希望される人は、下記リンクをご利用ください。

簡単!2分でできるアルコール依存症チェックシート(AUDIT)
http://alcoholic-navi.jp/checksheet/

健康に配慮して嗜む

自身の体質を尊重する
日本人の40%以上がアルコール分解酵素が少ないことは初めにお伝えしました。ご自身の体質が「フラッシング反応」を起こすか否か、自分の状態に合わせて飲み、無理はしないようにしましょう。

フラッシング反応が出る人や高齢者や女性は、成人男子の飲める人と比べアルコールの分解に時間が掛かります。1単位(純アルコール20⒢)が身体から抜けるまでに5時間を要しますから、3単位の摂取では半日以上アルコールの影響が残ります。夜摂取したアルコールが朝になっても残っている可能性があり、この状態で運転をすれば飲酒運転になります。

例え、飲める人であっても1単位のアルコールを飲み終わってから4時間は体内から消えません。またアルコールを飲んだ後に寝てしまうと更に分解が遅れますから要注意です。

「自分は酒に強いから沢山飲んでも大丈夫」という過信は根拠がありません。大量飲酒をした際には、摂取量に応じて体内からアルコールが消えるまでの時間が長くなりますから、くれぐれも過信は禁物です。

分解時間の目安をお知りになりたい方は、「単位・ドリンク換算 分解時間のめやす電卓」のリンクをご参照ください。
https://www.ask.or.jp/alcohol-unit_calculator/

 

飲酒前や飲酒中に食事をとったり、水分補給を心がけましょう
空きっ腹でのアルコール摂取は、吸収が早く、血中のアルコール濃度が一気にあがるため、急性アルコール中毒のリスクが高まります。
食事と一緒に飲むことで、胃の粘膜に食べ物の層ができるので胃が守られるだけではなく、食べ物と一緒に小腸に送られたアルコールはゆっくり吸収され、肝臓への負担も軽減されます。

お勧めの食べ物は、魚介類・枝豆・豆腐・脂身の少ない肉類などです。なぜなら高タンパク質の食品は、アルコール代謝酵素を活性させ、肝細胞の再生を促進するからです。
飲酒によって減少するビタミンB1.B2の補給には、レバーやナッツ類、胡麻和えなどが良いでしょう。

飲酒中の水分補給は大切です。チェイサーとして水や炭酸水をとることで、悪酔いを防いだり、二日酔いを予防します。
またアルコールには強い利尿作用がありますから、飲んだ量より多くの水分が失われることもあり、チェイサーは脱水症状の予防になります。

特に夏場によく飲まれるビールは利尿作用が強いため、飲んだ量より多くの水分が排出されてしまいます。汗をかく季節にはチェイサーは欠かせないでしょう。

休肝日を定めましょう
1週間のうち、飲酒しない日を1日以上作り、身体を労りましょう。
アルコールは胃で20%、小腸で80%が吸収されたのち、大部分が肝臓で代謝されます。
肝臓はアルコールの代謝だけではなく、胆汁の合成や栄養の貯蔵など大切な様々な役割を担っています。毎日の飲酒は肝臓の負担になるだけでなく、依存症のリスクを高めます。

国立研究開発法人 国立がん研究センターの調査によると、1週間あたりの純アルコール摂取量が300g以上(毎日飲んだ場合に1日あたり日本酒2合以上に相当)の男性は、休肝日ありのグループよりも、休肝日なしのグループの方が総死亡率が高いことが明らかになりました。
休肝日を作ることで、健康リスクをさげることができます。

アルコールは睡眠導入剤の代わりにはならない
寝付きが悪い時に「アルコールの力を借りて眠っている」という人も中にはおられるようです。
アルコールは利尿作用からかえって中途覚醒を誘発したり、酔い覚めのタイミングで目が覚めてしまうことがあります。また、酔いつぶれて眠る行為は墜落睡眠と言われ、本来の睡眠のリズムとは違い睡眠の質を下げてしまいます。

「嫌なことがあって忘れたいから」「不安な気持ちから逃れたいから」など不安解消のための継続飲酒は、依存症のリスクをはらみます。

法律は遵守しましょう

飲んだら乗るな、飲むなら乗るな
飲酒をした状態で運転することは法律で禁止されています。(道路交通法「酒気帯び運転等の禁止」第65条)

飲酒時には安全な運転に必要な情報処理能力や判断力、注意力などが低下することは分かっていますから、飲酒の予定がある外出は公共の交通機関の利用を心がけたり、やむを得ず飲酒になった際には、運転をせず、運転代行などを活用しましょう。

(道交法に違反した場合、酒酔い運転では5年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科せられ、また運転者以外の車両提供者、種類の提供者など周囲の責任についても処罰対象となります。)

お酒は20歳になってから
未成年者の飲酒は身体的、精神的に大きなリスクがあるだけでなく、事件や事故につながりやすく社会的にも大きな影響を与えます。そのため国は「未成年者飲酒禁止法」を定め、飲酒防止を呼びかけています。

飲酒により、特に影響があるのが脳です。記憶に関わる海馬に対するダメージは大きく、記憶機能が低下する可能性があります。
脳の完成は20歳前後ですから20歳までは成長が続きます。未成年者が大量飲酒をした場合、アルコールによって海馬の容積が明らかに小さくなることが分かっています。

また、一般的に飲酒経験がないほど脳が敏感に反応し、酔いの程度が深くなるため、止め時が分からない未成年者では、急性アルコール中毒のリスクが高まります。

脳以外での体の影響は、性ホルモンにも及びます。
未成年のうちに飲酒を続けると、性ホルモンの分泌に異常が起きる恐れがあり、男子ではインポテンツ、女子では月経周期の乱れなどのリスクも高まります。
未成年者の飲酒は「百害あって一利なし」と言えるでしょう。

諺(ことわざ)から学ぶ

「酒は百薬の長」とは、アルコールは緊張をほぐしたり、食欲を増進させたり、気分を良くしたりするもので、適正量を守れば薬にも勝るという諺です。

また、「良いワインはよい血を作る」「酒に十の得あり」など上手に嗜むことで、対人関係の潤滑油になったり、労を助けたり、寒さをしのげる、祝い事などの土産となるなど、メリットもあると昔から言われています。

こうしたアルコールのメリットを享受するためには、体への負担が起きない適正量を守り、休肝日を作ることが何より大切です。

 

参考:
・厚生労働省「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」:
https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/001211974.pdf
・非営利活動法人ASK:
https://www.ask.or.jp/
・アルコール依存症治療ナビ、Jp:
http://alcoholic-navi.jp/
・大阪公立大学医学部付属病院 大阪府肝疾患診療連携拠点病院 図解「肝疾患の解説」
・厚生労働省:事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン 参考資料 「肝疾患に関する留意事項」
・国税庁HP:20歳未満の者の飲酒防止の推進

 

筆者:セーフティネット産業カウンセラー、公認心理師

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