こころとからだの健康
職場のメンタルヘルス 管理監督者向けpart4 ~ご自身のケアを後回しにしていませんか?~
部下のメンタルヘルスに配慮するあまり、ご自身のメンタルヘルスがおろそかになってはいませんか?
チーム全体のウェルビーイング、心理的安全性に影響を及ぼすと言われている管理職のメンタルヘルスはとても大切です。
管理職をとりまく近年の社会変化
働き方改革
厚生労働省は「働き方改革~一億総活躍社会の実現に向けて~」を目指し、労働時間法制の見直しや公正な待遇の確保等について改正を行ってきました。
けれども実際は人手不足やダイバーシティ、ハラスメント対策などに加え、残業時間の上限規制が中心に進んだこと、効率性の向上が遅れていることで、管理職の約46%が業務量が増加していると回答しています。
(パーソル総合研究所の2019年調査「中間管理職の就業負担に関する定量調査」)
中間管理職の心理的負担と業務負担
中間管理職が感じている負担にはどのようなものがあるでしょうか。
これまで相談室に寄せられたご相談も参考にしながら負担について考えます。
責任の増加と業務の増加
中間管理職とは、部下をマネジメントする役割に就きながら自身にも上司がいる立場の従業員を指します。
中間管理職になると様々な役割を担い、主に
①経営層の意思決定支援
②部下のマネジメント
③関係部署との調整
などが挙げられます。
日本においては、99.5%の中間管理職がプレイヤーとマネージャーを兼務しており、「第6回上場企業の課長に関する実態調査」によれば、課長業務の半分がプレイヤーとして仕事をしています。
「長時間労働に関する実態調査」(パーソル研究所)では、課長職の残業時間は約32時間であり、非管理職メンバーに比べると約9時間多い結果でした。
部下と上司の板挟み
中間管理職である立場では、上司からノルマや達成目標を掲げられ、それを部下に通達する調整役を担います。実際には現場に精通しており現場の負担感の理解や部下の声に耳を傾けることで板挟み状態になることがあります。
どちらの気持ちも分かるが故に葛藤が生じることがあるでしょう。
部下の育成が十分にできない
部下の教育や指導、育成も重要な役割ですが、自身の業務の増加により思うように時間が捻出できなかったり、世代性格が変化した若手との価値観の違いに戸惑いを感じ、声掛けがうまくいかなかったり、意思疎通に苦労するといったご相談もあります。
後任者が不在
「中間管理職の就業負担に関する定量調査」によると、後任者の不在という課題を抱えている中間管理職は56.2%であり、人材不足が深刻です。
後任者になるべき人材は育成をしなくてはならず、その育成自体に費やす時間がないことで、業務を分担することもできず更なる業務過多となり悪循環に陥っている傾向があります。
中間管理職のセルフケア
上記に記した量的、質的ストレスの増加、心理的ストレスの増加により、ストレス反応が生じている人も少なくありません。
業務過多の影響
残業時間が増加すると帰宅時間に影響が出ます。夕食の時間が後ろ倒しとなり、就寝時間にも影響が及ぶことがあります。
夕食が後ろ倒しになることで、就寝した際に食べ物が消化しきれず就寝後も内臓が消化を続けることになりますから、当然身体への負担が生じます。
本来は7時間~8時間が疾病リスクが最も少ないと言われている睡眠時間ですが、帰宅時間が遅くなることで、量や質が低下し、起床時に「熟睡感が得られない」「疲れが取れない」といった状態になることもあるでしょう。
睡眠不足は心身へ様々な反応を引き起こすことが分かっていますから、セルフケアがとても重要になります。
さらに「帰宅しても仕事のことを考える」「時には家に仕事を持ち帰ることもある」「在宅勤務を導入しているが、ついついパソコンを開いてしまう」など、オンオフがうまくつけられず、慢性的に疲労を感じられる方もおられます。
加齢によるリスク
40歳代以降、男性ホルモンは徐々に低下していきます。個人差はありますが、男性ホルモンであるテストステロンの減少は心身に影響を及ぼします。
女性の場合は概ね50歳前後の10年間を更年期とされていますが、男性の場合は終わりがありません。
上記図で示した性ホルモンの役割ですが、分泌が低下することでこれまで維持してきた作用に影響が出てきます。(参考:一般社団法人 日本内分泌学会)
更年期の男女に見られる一般的な症状として
①血管の拡張と放熱に関する症状…ホットフラッシュ、のぼせ、冷え
②その他様々な身体症状…生活習慣病、睡眠不調、基礎代謝の低下、疲労感
③精神症状(メンタルヘルス)…意欲の低下、情緒不安定、易怒性、
などが挙げられます。
(参考:一般社団法人 日本内分泌学会)
また、テストステロンはストレスの影響を受けやすいため、分泌を維持するためにはストレスケアが大切です。
年齢も視野に入れたセルフケアを心がける
セルフケアの基本は、良質な睡眠、バランスのよい食事、適度な運動、リラクセーションの4つです。
40代以降は年齢によるリスクが生じますから、上記を意識した生活習慣を保つことが大切になります。ポイントを挙げてみましょう。
加齢で減少する男性ホルモンを意識する
テストステロンの分泌を促すには、たんぱく質をしっかり摂ることですが、ニンニクと一緒に摂取することで、さらにテストステロン値が上昇します。
たんぱく質摂取量は、体重1キロに対して1グラムの摂取です。
体重70kgの人であれば、一日70gが目安となります。
ビタミンやミネラルの中でも特にビタミンDや亜鉛はテストステロン維持に大切です。これらは魚介類に多く含まれますので、意識して食べましょう。
発酵食品や食物繊維は腸内細菌を正常に働かせます。乳製品は腸内細菌を増やしますから積極的に取りたいものです。
テストステロンは、運動による筋肉の刺激で増加することが分かっています。
中強程度の有酸素運動は効果があります。ウォーキングの際に坂道や階段のあるコースを選び太ももの筋トレを取り入れると効果的と言われていますが、やり過ぎは禁物。1回30分で週3回を目安にしましょう。
また、テストステロンは別名「社会性ホルモン」と呼ばれ、人から褒められたり認められること、人とのつながりで分泌が増えますので、良好な対人関係を維持することもポイントとなります。さりげないお喋り、雑談の機会を持ちましょう。
テストステロンは、睡眠中の夜中の1時から3時ごろに産生されると言われていますから、睡眠時間の確保は大切になります。睡眠の質を担保するには、睡眠ホルモンであるメラトニンを減少させてしまう働きをするブルーライトを発するパソコン、スマホの使用を就寝前1~2時間にはやめましょう。
女性ホルモンを意識する
エストロゲンの低下は様々な不調を引き起こします。植物性エストロゲンを摂取することで更年期症状の緩和が期待できます。
植物性エストロゲンは、大豆、ナッツ、ゴマ、果物、マメ科植物に多く含まれます。
また、オメガ3脂肪酸が多く含まれるサーモン、サバ、イワシなどの青魚もお勧めです。ビタミンCが摂取できるケールや柑橘類、トマト類など色取りが濃い食品も意識して食べましょう。
エストロゲンは皮下脂肪から分泌されるレプチンが産生を促しますので、過剰なダイエットはご法度です。半年以内に体重の10%以上の減量はエストロゲンの分泌に影響します。
女性ホルモンであるエストロゲンは、男性も産生しています。男性ホルモンであるテストステロンの一部がエストロゲンに変化しますから、バランスのよい食事は大切です。
オンオフをつける
ストレスをコントロールするために簡単にできる方法として、呼吸法やマインドフルネスがあります。
マインドフルネスは「第三世代の認知行動療法」と言われ、科学的に効果が証明されています。マインドフルネスには、呼吸法、静坐瞑想、歩くマインドフルネス、食べるマインドフルネスなどいくつかの種類があります。目的やご自身にあったものを選びましょう。
腹式呼吸は自律神経に働きかけます。副交感神経を優位にすることができ、またいつでも、どこでも可能です。疲れたとき、イライラを感じたとき、緊張しているときなどに活用しましょう。
今回のコラムでは中間管理職のストレスケアについてまとめてみました。
人は年齢が高くなり、地位が上がると相談相手が減少し孤独を感じることがあると言われています。
自分でできるストレスケアももちろん大切ですが、受援力を育み援助希求行動を意識し、困ったとき、辛いときに他者の力を借りるという戦略も活用していただければと思います。
テストステロンは社会性のホルモンですから、人と話すことで活性化します。社内外を問わず人との関係性を維持し、時には愚痴をこぼしたり、失敗談を語ったり、頑張ったとき、上手くいったときには褒めてもらうなど対話の機会を増やします。
ストレスを感じたときには、心理の専門家などプロの意見を積極的に取り入れ、新たな知識の醸成や活用を目指しましょう。
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「見逃される男性の更年期症状」
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セルフケア「眠れない夜にリラクセーションを取り入れる」
リラクセーション法をご紹介しています。
https://www.safetynet.co.jp/column/20220725/
筆者:セーフティネット産業カウンセラー、公認心理師