研修
これからの新入社員の育成は、異なる世代の特徴を生かし新旧が共に成長すること
「Z世代」と呼ばれる1995年以降生まれの世代と協働するようになり、6年以上が経過しました。
異世代への教育はこれまでの「当たり前」が通用せず難しいというお声も聞こえてきます。「わからない」と決めつけたりせず、新旧の従業員が共に成長する新たな視点で教育の見直しを行いましょう
Z世代の特徴を理解する
価値観の変化
Z世代の特徴は、デジタルデバイスの大きな進化です。それを活用することにより情報収集力が向上、比較力が格段に高まりました。自分に合うものを探し選ぶことが可能になり、選択肢が大幅に増えたことが挙げられます。
興味の範囲も広がり、行動を起こす前には「本当に必要か」「やる意味はあるのか?」「それは自分に合っているのか」と意味や価値に重きを置く傾向が高まったと言われています。
「とりあえず、やってみろ」「いいから黙ってやれ」と言った、ひと時代前の指導では、意味が分からず納得できないのです。
リクルートマネジメントソリューションズが13年連続で実施している「新入社員意識調査」によると、仕事で重視することとして「成長」と「貢献」の選択率が高いことが分かりました。
自身の成長につながる理由を明確にし、納得が得られると「任された仕事を確実に進める」モチベーションに繋がります。
世代間のギャップ?いいえ、それは価値観の変化です
このような会話の経験はありませんか?
上司A「『困った時にはいつでも相談してね』と声を掛けているのに…」
新人B「いつも忙しそうで席に居ない。タイミングが分からない」「そもそも困ってないし、どう話しかけていいのかもわからない」
上司C「言われたことしかしない。指示に従うだけでは成長しない」
新人D「指示に従い確実に仕事はしているのに、努力を褒めてもらえないなんて…」
上司E「積極性を期待しているのにアピールが足りない。いったい何ができるんだろう」
新人F「自分には得意なことが色々あるけれど、上司は何ができるか尋ねたり、そうした場面を作らない。そもそも提案してもいいのだろうか」
上司G「間違ったことを指摘しただけなのに、ものすごく凹んでしまった。注意の仕方が難しい」
新人H「失敗してしまった。何が悪かったのか、どうしたら良かったのかは教えてくれず不安だけが残った。それにあんなに声を張らなくても聞こえるし、周りに聞こえて恥ずかしいし、すごく嫌だった」
コロナ感染症の拡大による予防対策により、Z世代は大切な時期に体験不足、コミュニケーションの大幅な減少を経験しました。ストレスに対する耐性は、減少したのではなく、こうした体験不足が影響をしていると言われています。
またZ世代の多くは失敗に対する不安や恐怖に敏感さがあり、失敗を回避するために、堅実、確実性を求める傾向が強いと言われています。
上司との関係性を作りたいと願いながら、自ら声を掛けることには不慣れであり、また、忙しい上司に遠慮する傾向もあるようです。
このような世代傾向を理解し、新入社員の特徴にあった丁寧な技術指導、教育を行い、スモールステップでの達成を積み上げ、成長を後押しします。
お互いの個の尊重し双方のスキルを上げる方法とは
リバースメンタリングとは
リバースメンタリングを初めて組織に導入したのは、20世紀の最高の経営者と言われる米ゼネラル・エレクトリック(GE)の元CEOジャック・ウェルチ氏でした。
ウェルチ氏は、新しいテクノロジーに詳しい若手社員から自ら指導を受けノウハウを学びました。社内で管理職が若手社員から学ぶ制度を構築したことが始まりです。
リバースメンタリング導入企業
国内外の企業では、P&Gが初めて日本で導入しました。
(内閣府「仕事と生活の調和実現に向けた取組に対する表彰事例」
https://wwwa.cao.go.jp/wlb/research/h21torikumi/pdf/case2/b13_1.pdf)
デジタル戦略の方法として、三菱マテリアルでは、若手社員が経営層の指導役を務める逆メンタリング制度を導入し効果を上げています。
また、資生堂も管理職と若手社員が自由に意見交換ができる施策を構築しました。
その他、スリーエムジャパンなど多くの企業が導入しています
リバースメンタリングは相互にメリット
お互いの特徴を生かすためには、上下関係や優位性などにおけるパワーバランスを使わず、それぞれ対等な立場で互いに学ぶ環境を育てることが大切です。
Z世代の持つグローバルな感覚、デジタルリテラシーの活用、柔軟な思考や多様性に対する個の尊重などはその特徴であり、一方で上司の世代には、これまで培ってきた経験に裏打ちされた交渉力、社内外の人脈、業務に必要なスキル、責任感、レジリエンス力などがあるでしょう。
部下が上司のメンターになり、相互の理解と成長を促すリバースメンタリングは、互いの価値観の違いを知るきっかけとなり、コミュニケーションの機会を促進する良いきっかけになるでしょう。
部下の欲求段階を理解してサポート
人の成長、自己実現を達成するためには、下位の欲求を段階的に満たしていく必要があると唱えたのが米国の心理学者マズローです。
マズローは人間を「自己実現に向かって絶えず成長する生き物」とし、下から生理的欲求・安全の欲求・社会的欲求・承認の欲求・自己実現の欲求と階層化しました。
1960年に提唱された「欲求の5段階説」ですが、現代でもビジネスやマネジメント、自己理解の促進などに広く活用されています。
「部下の指導」を確実にサポートするためには、部下の現状を理解する必要があります。
何を求め、どの段階にいるのかを把握せず、上司の価値観や思い込みで「○○だろう」「○○して欲しい」と決めつけてしまうと意思の疎通からは遠くなってしまいます。
今の部下には何が足りており、何が不足しているのか、育成にはどの欲求をサポートする必要があるのか、部下の現状のスキル、動機付けなど丁寧にコミュニケーションを取り、部下の現状、心情を理解することが求められます。
サポートを行う際には、ティーチング、コーチング、メンタリング、1on1などの手法を身に付けておくと良いでしょう。
急がば回れ
これまでの指示命令で部下を動かす価値観は通用しなくなりました。
「そんな時間の余裕はない」「面倒くさいな」ではなく、部下のモチベーションを支える目的の共有、業務配分の調整、承認や労いなど、個性を生かした指導は内発的動機付けとなり、やがては部下が自ら進んで業務遂行、アイディアの創生を行う人材と成長するでしょう。
スタートに手間暇をかけ、丁寧な指導や教育を行うことで、将来的には、次の世代を担うリーダーの育成につながることでしょう。
出典:リクルートマネジメントソリューションズ 「新入社員意識調査2023」
https://www.recruit-ms.co.jp/press/pressrelease/detail/0000000409/
ハーバードビジネスレビュー 「リバースメンタリング:若手社員のサポートで幹部の姿勢を変える」
内閣府「仕事と生活の調和実現に向けた取組に対する表彰事例」
https://wwwa.cao.go.jp/wlb/research/h21torikumi/pdf/case2/b13_1.pdf
筆者:セーフティネット産業カウンセラー、公認心理師