こころとからだの健康
認知行動療法について
気分障害の改善に推奨される療法の一つに「認知行動療法」があります。耳にすることが多い心理療法ですが、実際にどのように実施するかはご存じない方が多いように思います。
今回のコラムでは、認知行動療法の基本的な考え方をお伝えして参ります。
認知行動療法の基本理論について
認知行動療法の中で最も代表的な理論と言えば、アルバート・エリスの「ABCDE理論」とアーロン・ベックの「認知療法」です。簡単に解説します。
アルバート・エリス(米国の臨床心理学者)
アルバート・エリスは、米国の臨床心理学者です。短期間で精神と共に行動まで治療できるものを模索し、1955年に「論理療法」を提唱しました。
この論理療法は、現在では「理性感情行動療法」と呼ばれ、認知行動療法の基礎となっています。
アルバート・エリスの「ABCDE理論」とは?
アルバート・エリスは非合理な信念が抑うつや不安、緊張を作り出すと考えました。
適切で合理的な思考を身につけることで気分が改善する過程を、5つの頭文字を使い分かりやすく説明しています。
A:Activating Event: できごと 事実
B:Belief: 信念 解釈
C:Consequence: 結果
D:Dispute:論駁(ろんばく)反証
E:Effect:効果
解説してみましょう
・あるできごと「Aに遭遇」すると、すぐに「C:結果」が生じるのではなく、その間に「B:解釈や受け止め方(信念)」があり、初めて「C:結果」となります。
不適切な「B」があると、できごと「A」は誤った解釈となり、ネガティブな結果を生んでしまいます。そのため「D」で不適切な「B」を反証し、別の見方を探り、解釈や思い込みを修正していきます。
反証により合理的で健全な「B」に書き換えることが目的です。
1つ例を挙げてみましょう
A(できごと):友人と映画を見る約束をしていたが、友人が待ち合わせ場所に来ない
B(受け止め方):「約束を忘れたに違いない」「以前もドタキャンされたからまたか?!」
C(結果):「私の存在は軽んじられている」「私は大切にされない存在だ」
強い失望、怒りの感情が想起
D(反証):「何か事情があるのかもしれない」「体調が悪いのかも」
F(効果):怒りや失望の感情は収まり、心配、配慮の感情になる
いかがでしょう。
こうした思い込み、不適切な信念や解釈で、これまで失敗を経験された方もおられるのではないかと思います。
アーロン・ベック(米国の精神科医)
アーロン・ベックは、米国の精神科医です。1963年に「抑うつ質問票」、1976年には「認知療法」を出版し、認知療法を提唱しました。
アーロン・ベックは学派を超え「何が患者のためになるのか」を追求した人です。今では、世界中で最も科学的根拠のある汎用性の高い療法として知られています。
アーロン・ベックの「自動思考」と「認知の歪み」
アーロン・ベックは「自動思考」と「認知の歪み」の概念を大切にしました。
認知の歪みの代表として、いくつかご紹介します。
①全か無か思考・・・・物事を白か黒かのカテゴリーに二分した思考
②過度な一般化・・・・「いつも~だ」「~に違いない」
③結論への飛躍・・・・こころの読みすぎ、先読みの誤り
④感情的決めつけ・・・感情をもとに意思決定すること
⑤すべき思考・・・・・「~すべき」「~すべきでない」
⑥レッテル張り・・・・「あの人はだらしない」「アイツはバカだ」
⑦心のフィルター・・・一つの出来事に囚われ、クヨクヨと長い時間暗い気分を抱える
⑧マイナス化思考・・・プラスの出来事もネガティブに捉え自分の喜びを奪ってしまう
いかがでしたか?
「この傾向はあるかも?」と感じられた方もおられるかもしれません。
認知行動療法の代表的なワークである「コラム法」について
コラム法について
認知行動療法では、コラム表(思考記録表)を使って自分自身の認知の特徴、クセへの気づきを促し、セルフコントロール力を高めることを大切にしています。
偏ったモノの見方や受け止め方のクセに気づくことで、バランスの取れた認知を身につけていくことを目指します。
だれでも持っている「自動思考」とは?
人は、これまでの経験や教育、しつけや性格の特質などから、ある出来事に遭遇したとき、感情が動きます。そして、自然に湧き上がる思考があります。意識せず自動で湧き上がる考えなので「自動思考」と呼ばれています。
常に否定的な考え、認知が沸き起こると、その考えが刺激になり、不安や緊張がつきまとうことになります。
こうした否定的な認知をベックは「認知の歪み」と表現しています。
コラム表のステップ
コラム表には各ステップごとに記載をしていきます。
①できごと・・・・・・誰と、何を、いつ、どこに、などを
②気分・感情(%)・・ 気分を一言で
③自動思考・・・・・・その時に浮かんだことや記憶、イメージ
④根拠・・・・・・・・自動思考を裏付ける事実、考えた根拠
⑤反証・・・・・・・・自動思考と矛盾する事実
⑥適応的思考・・・・・根拠と反証を“しかし”でつなぐ 最良/最悪のシナリオ
⑦今の気分(%)・・・ 気分、感情の再評価
上記のステップ表を用い、繰り返しワークを行うことで徐々に認知のクセの修整を
おこなっていくのが「コラム法」と呼ばれているものです。
認知行動療法はどこで学べるの?
認知行動療法に関しては、医療機関等において専門家のサポートを受けながら実施されることを推奨しています。
しかし、治療としての認知行動療法ではなく、「こころのスキルアップトレーニング」として、自身でできる方法について、日本における認知行動療法の第一人者である大野裕先生が監修し「生活に生かす」方法などの解説を以下のサイトで行っています。
ご興味のある方はぜひ、サイトをお読みいただければと思います。
「国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター」
https://cbt.ncnp.go.jp/
大野裕の認知行動療法活用サイト[ここトレ]
こころのスキルアップ・トレーニング
https://www.cbtjp.net/
筆者:セーフティネット産業カウンセラー、公認心理師