こころとからだの健康

部下育成に心理学を応用する Part11 ~部下を理解し「やる気」をサポート~

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4人の石工職人(ドラッカー博士)

下記の図は、ある寓話をもとに、マネジメントの父と呼ばれるピーター・ドラッカーが著書『マネジメント』の中で示したことで有名になりました。

旅人がある村を訪れ、大きな建物を建てている石工職人に尋ねます。
「あなた方は、何をしているのですか?」
一人目は「お金のため、生活のためさ」
二人目は「腕のいい仕事をするためさ」
三人目は「国一番の良い教会を建てるため」
それぞれが答えます。

もとの寓話は三人でしたが、ドラッカーは後に「四人目の石工職人」のエピソードを示しました。
四人目は答えます。「人々の心の拠りどころを作っている」と。

ドラッカー博士は、その著書の中で、たびたび「仕事を通して得られる価値」について語っています。

多様性が当たり前の時代となり、働く目的や意味はそれぞれ違っています。
「食べるため」で作業が中心であれば、この仕事でなくてももっと稼げる仕事があれば、どこで働いても良いかもしれません。
また、「自分の技術」にのみ集中していると、仕事そのものや自分中心となり、顧客目線や周囲との関係性が薄くなるでしょう。
「町一番の教会を建てる」目的は、町のニーズに応えようと自慢できる成果が得られるかもしれません。
4番目の「心のよりどころ」を目的とする石工職人は、「皆の幸せ」を求め、動機に「使命感」が感じられますね。

マズローの欲求5段階説とは

「部下の動機を高めたい」「モチベーションはどう高めればよいのか」というご質問を上司やOJTご担当者の方から聞かれることがあります。
対象となる部下自身の「働く意味」や「目標」はどうであるのか、上司が考える成長と部下本人がイメージする成長は一致しているのか、様々な要素でみていく必要があるでしょう。

動機づけの説明の際に用いられる「マズローの法則」があります。
米国の心理学者のマズローは、人間の欲求が5段階で構成されることを表し、低次の動機が満たされると高次動機を求め、段階構造にあるとしました。

入社し、経済的、健康的に安定し、物質的な欲求が満たされると、人は次第に高次の欲求を持つようになります。
上司は部下の成長レベルや欲求を理解し、それぞれの部下に合った適切な課題、承認などの報酬を与えることが、成長には欠かせません。

若手社員の意識調査

リクルートマネジメントソリューションズが実施した「VUCA×Z世代のニューノーマルを考える」新入社員意識調査2022調査において、
「Q:あなたが上司に期待することは何ですか?」に対し、32.6%の新入社員が「よいこと・よい仕事をほめること」を挙げ、
「Q:あなたが仕事・職場生活をするうえで不安に思っていることは何ですか?」では、63.8%の新入社員が「仕事についていかれるか」を挙げています。

ほめることのメリットは、部下の自己肯定感を高め、やる気を促進することだけではなく、上司に対する信頼関係も生まれます。
「仕事についていかれているか」といった不安を軽減するためには、上司の支援が欠かせません。
きめ細やかなサポートやフィードバックを行うことで、部下の安心感を醸成し、やる気を引き出す助けになります。

ほめ方のポイント

モチベーションを高める方法の一つに「ほめる」があります。けれども、「ほめることに慣れていないのでなかなか難しいです」「ほめるところが見つからないです」という声も聞かれます。
いくつかポイントで解説致しますので、ご参考にしていただければと思います。

①経過や途中の様子をほめる (行動承認)
・経過を認めることで、作業を安心して遂行できるでしょう
・工夫や努力を見逃さず、行動をほめます

②結果を具体的にほめる (成果承認)
・自分の仕事を理解してくれていると部下が感じられるよう適切な言葉をかけましょう。そのためには内容を理解し、問いかけ、事実や成果を具体的にほめます

③取り組む姿勢や変化、成長をほめる(成長承認)
・「1年前には難しかった業務もスムーズにできるようになった」「会議での発言が増えた」部下は成長しています。そんな部下の成長をともに喜び、ほめましょう

④存在を認めること(存在承認)
・モチベーションを高めるほめ方をしたいと思ったら、なにより部下の存在を認め、心情を理解することが基本です。どのようなことで気持ちが鼓舞されるのか、ワクワクする瞬間はどのようなときなのか、大切にしていることは何なのか、日頃から部下との対話を大切にします。
また、成果を共に喜び、共感を示すことで一体感も促進されるでしょう

⑤感謝し、労う姿勢を大切に
・チームで成果を上げるためには助け合い、協調することが求められます。日頃から感謝の気持ちを忘れず、心理的安全性を高める関わりを増やしましょう

⑥タイミングを逃さないでほめる
・よい行動や成果が出たときは、タイミングを逃さずその場でほめましょう。

 

参考:
「マネジメント[エッセンシャル版] – 基本と原則」
ピーター・F・ドラッカー(著) 上田 惇生(翻訳)ダイヤモンド社

「人間性の心理学―モチベーションとパーソナリティ」
アブラハム・Hマズロー (著), 小口忠彦 (翻訳) 産能大出版部

リクルート マネジメント ソリューションズ 「~ニューノーマル時代の新入社員の定着・早期立ち上がりに向けて~新入社員意識調査2022」
https://www.recruitms.co.jp/issue/inquiry_report/0000001077/?theme=starter

 

筆者:公認心理士、産業カウンセラー

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