こころとからだの健康
職場のメンタルヘルス ~昇進・昇任うつを予防する~
4月に入ると、異動や昇進の話題を耳にすることがあります。
今回は、この昇進に関わるメンタルヘルスについて考えます。
昇進うつは何故起きるのか
そもそも、脳は変化を嫌います。
パターンや習慣、同じ環境という決まったリズムが脳の安定には大切なのです。
たとえ喜ばしい変化であっても、大きな変化は脳に対して負担になるのです。
昇進による変化
出世や昇進は、これまで自分が過ごしてきた環境に大きな変化をもたらします。
たとえば、
・人間関係が変化する
・部下への責任が生じる
・管理されていた立場から管理する立場に変わる
・組織から求められる役割が変わり、新たなスキルが必要になる
・望まなくともプレイヤーや現場から遠ざかる
・理想と現実のギャップに直面する
・リーダーシップを求められる
など、列挙すると様々な変化があり、こうした変化に適応し馴染むためにエネルギーを必要とします。
マインドセットを整えられずにいると、心身への影響が表れる人も少なくないでしょう。
寄せられたお悩み
相談室に寄せられた内容には、
「与えられた役職に対して、自分の期待を膨らませたものの、思うような力を発揮できなかった」
「知らず知らずに完璧を求めてしまった」
「部下の期待に応えられなかった」
「自分にはリーダーの資格はないと思う」
「そもそも課長になりたくなかった」
「思うような成果を上げられない」
などなど、切実な心情が窺えます。
実態調査から
産業能率大学総合研究所が実施した「第6回上場企業課長に関する実態調査」の結果によると、重要性が増したスキルのトップ3は、「IT活用」、「タイムマネジメント」、「メンタルタフネス」であり、課長としての悩みのトップは、「部下がなかなか育たない」(32.2%)でした。
課長として「最も多く時間を割いている業務」については、「部下とのコミュニケーション」(30.9%)と2位の「資料作成」(27.3%)で全体の約6割を占めています。
また、36.6%の人が、11~30時間の残業をしており、21.7%の人が、業務量が多いと実感しています。
課長職の99.5%がプレイヤーとしての役割も担っており、マネージメントとプレイヤー両立の忙しい中で、部下とのコミュニケーション時間を捻出していることが分かりました。
参考:産業能率大学総合研究所 2021年 第6回上場企業の課長に関する実態調査
https://www.sanno.ac.jp/admin/research/kachou2021.html
マインドセットを整え、うつを回避する
役職が高まるほど、孤独度も高まると言われています。
管理される側にいた時と違い同僚と呼べる存在が減少したり、上司という立場から弱音を吐きたくないという自身のプライドもあるでしょう。
また、調査結果にあったように、業務の忙しさで新たな人間関係の構築が難しいこともあるかも知れません。
けれども、組織において信頼できる人間関係を形成することは、とても大切です。
「○○すべき」「○○に違いない」という思い込みは一旦わきに置き、新たな心がまえで対処します。
ポイント1.
・信頼できる人の存在をつくり、時に弱音や愚痴を口にする
社内外での人間関係作りを積極的に行いましょう。
ポイント2.
・部下に頼る、任せる
ITスキルや情報収集は、若手社員の得意分野です。
また、部下の特性を知り、部下とあなたのスキルを伸ばすためにも「リバースメンタリング」即ち、部下をメンターに指名し、相互理解を深めてみましょう。
ポイント3.
・上司に相談する
困ったり悩んだときには、独りで抱え込まず、組織で対応することが大切です。
上司も過去には同様の苦労を経験したことがあるでしょう。先人の知恵を自分のチカラとすることも対処方法の一つです。
ポイント4.
・セルフケアを怠らない
脳は変化を嫌う、と最初に書きました。脳はリズム、習慣を好みます。
規則正しい食事、睡眠時間の確保、気晴らし、休養などのリラクセーションを行います。
疲労が蓄積して、自分の対処法だけでは回復が難しいと感じたら、保健師や産業医など産業保健スタッフなどに早めに相談をしましょう。
「昇進うつ」の症状
「昇進うつ病」は正式な疾病名ではありません。その症状は、うつ病の症状と同様で、慢性的な疲労感や不眠、食欲不振または過食、頭痛、腹痛、吐き気、めまい、集中力の低下などといったものが一般的です。
更に、自己効力感の低下も起きることがあります。
上記のような症状に気が付いたときには軽視せず、産業保健スタッフやEAPのカウンセラーなどにご相談ください。
筆者:公認心理師 産業カウンセラー