こころとからだの健康

号泣と笑いの勧め

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あなたは最近、「大声で泣いた」「声を出して笑った」を経験しましたか?

人は年齢を重ねることで、「笑うこと」「泣くこと」が減少してしまいがちです。
大声で笑い転げる、声を出して泣く、は子供や若い人たちの特権ではなく、本来、人間に備わった能力の一つです。人は、喜びや悲しみの感情の揺れ動きにより、笑ったり泣いたりするものですから、無理に我慢したり、抑制したりすることは却ってストレスになってしまいます。

「号泣の効用」

1985年に涙の研究で注目されたアメリカのウィリアム・H・フレイ博士によると、涙の種類は3つあり、
基礎分泌による涙は、ドライアイ防止や角膜保護のために常に分泌されるもの
刺激による涙は、ゴミが入ったり、玉ねぎを刻んだときに出るもの
感情による涙は、上記と違う成分があるのでは、という仮説を立てました。

実際には、この仮説を裏付ける研究結果はなかったものの、近年の研究では、泣く前に「正中前頭前野」の活動が急激に高まることが分かりました。
東邦大学医学部 名誉教授 有田秀穂氏によると、『「正中前頭前野」は、精神活動を司る前頭前野の中でも特に共感に関係しており、副交感神経が働いて涙腺を刺激して涙が出る。号泣は、ストレス状態にある脳(交感神経緊張状態)を一時的にリセットさせる効果が期待される。さらに号泣は、覚醒状態にありながら、積極的に副交感神経優位の状態を発現させて、ストレス緩和に寄与するものと考察される。』と述べられています。

「泣いたらすっきりした」「泣いたら気持ちが落ち着いた」と感じることは、こうした脳の活動があったからなのですね。
「人目があるから」「みっともないから」など、泣くのを無理に堪えたり、我慢するとストレスの解消ができず、ストレス状態が継続してしまいます。理性で感情を抑えるのではなく、時には感情に身を任せ、涙を流してみるのも良いかもしれません。

「笑いの効用」

笑いの効能については医学分野の研究が進んでおり、笑うことでナチュラル・キラー(NK細胞)細胞が活性化することも証明されています。
日本医科大学リウマチ科の吉野槙一教授によるリウマチ患者に落語を聞かせた実験や、ガン患者らに吉本新喜劇を見せ、その前後でガン細胞を直接攻撃するNK細胞の活性化を調べるという実験、また最近では糖尿病患者に漫才を聞かせて血糖値の改善を認めたという報告もあります。

また、大声で笑うと自然に腹式呼吸になり、体内にたまっている大量の二酸化炭素が体外に排出され、たくさんの酸素を体内に取りこみやすくなります。すると、肺胞の表面からプロスタグランジンという物質が分泌され、血管を拡張させて血圧を下げるように働きます。また、興奮したときに分泌されるホルモンであるノルアドレナリンの分泌も抑えてくれます。笑いが呼吸に作用することで、さまざまな体の不調を整えてくれるのです。
さらに、大阪府立健康科学センターが行った笑いの頻度と1年後の認知機能との関連についての横断・縦断研究の結果、「ほぼ毎日笑う人」と「ほとんど笑わない人」では、後者のほうが1年後の認知機能の低下が大きいという調査結果が出ています

人は年齢を重ねることで、健康を損なったり、友人や身内を失うなど、喪失経験が増えてしまうと言われています。辛いできごとに遭遇したときには、周囲を憚らず大声で泣き、涙を流し悲しみや寂しさを洗い流しましょう。
そして、日々の暮らしの中においては、自ら楽しめる行動を心がけ、笑うことを見つけることが、ポジティブな思考、よい気分で過ごすことを可能にします。

日本の古い格言にも「笑う門には福来る」というものがあります。
学説や実験結果がない遥か昔から、私たちは「笑う」ことは良い感情をもたらすことを知っていたのではないでしょうか。

職場において、こうした笑顔になる機会を見つける方法の一つに「Good(Happy)&New」という雑談ミーティングがあります。
24時間以内に起きたグッド、ハッピーなニュースを職場の仲間と共有します。
一人60秒以内で話し終えたら皆で拍手し、喜びや幸せなエピソードを共有するのです。
「毎日、そうそうグッドなニュースはない」と思っていた人も、こうしたポジティブシンキングを続けることで、身近には嬉しいできごと、感謝すべきことが実に多くあることに気づかされます。
また他の人が何を大切にしているか、どのような出来事に幸せや喜びを感じているのかを知る機会にもなります。
コロナ禍において、コミュニケーションの機会が減少している今、こうした取り組みで、雑談の機会を設けてみてはいかがでしょう。

「笑うからこそ、福は来る」 ぜひお試しください。

 

 

筆者:産業カウンセラー
2022/1

参考:涙とストレス緩和 東邦大学医学部統合生理学 有田秀穂
ウィリアム・H・フレイ著「涙――人はなぜ泣くのか」(石井清子訳 日本教文社1990年刊)
守秀子(2013):「笑う門には福来る」表情フィードバック仮説とその実験的検証,文化学園長野専門学校研究紀要,5,61-66.
健康長寿ネット:笑いと免疫機能・ストレスへの作用について
https://www.tyojyu.or.jp/net/topics/tokushu/warai-genki/warai-menekikinou.html
「笑いの医学的考察」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/warai/1/0/1_KJ00003258916/_pdf

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