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部下の育成に心理学を応用する Part3 ~選択話法、返報性の法則~

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新型コロナ感染症の予防措置として推奨されるテレワーク、外出自粛、三密予防は、対人接触機会を大きく減少させ、部下と上司の心理的距離を広げてしまい、コミュニケーション・ディスタンスとも称されるようになりました。

ロッカールームのお喋り、ランチタイムの気の置けない対話、給湯室での無駄話、なんの変哲もないこうした日常のさり気無い会話は、連帯感の醸成や孤立予防、ストレス発散の役割を担っていたと気づかれた方も多いのでは?と思います。
また、社内や社外の仲間が集まっての会食や団らんは、「肩の凝らないブレーンストーミング」にも貢献していたことも分かってきました。

コロナ下で入社した社員は、部署内の人間と親しい関係性を構築する間もなく在宅勤務となり、すべてがオンラインで完結してしまい「不安や孤独を感じる」という声も聞かれ、関係性の希薄な若手社員へのサポートやケアは上司の喫緊の課題の一つです。

こうしたコミュニケーション・ディスタンスを改善する方法に「雑談」「Good&New」などが注目されています。
とはいえ、
「いきなり雑談を勧められても何を話したらいいのだろう?」
「普段仕事以外に接していない若手社員との雑談は難しい。」
「年齢差が大きい人にどんな話題を提供すればいいのか。」
「お互い話が続かない。」
となどという声も聞かれます。
そこで、訊きかたスキルの向上に心理学の視点を取り入れてみてはいかがでしょう。

選択話法は予め答えを提示し、相手に選択してもらう方法です。
アメリカの精神科医ミルトン・エリクソン(Milton・H・Erickson、1901-1980)が精神科治療に用いた「選択肢の錯覚」という技法に由来しています。

人は選択肢を提示された際に、ついどちらかを選んでしまうという心理が働きます。
「もっと部下を知りたい」「対話を楽しみたい」という前提のもと、質問を投げかけてみましょう。
「ランチに行くなら和食、中華、洋食どれがいいかな?」
「週末の気晴らしって、アウトドアが好き?インドアがメイン?」
「緊急事態宣言も解除になったけれど、もし映画を観るなら邦画?洋画?どっちが好み?」
話題が具体的になれば、そこから次の話題に移ります。
「何が食べたい?」や「週末何していた?」と漠然とした質問は案外答えにくいものです。具体的な選択肢を示すことで相手の好みや嗜好性が垣間見られ、次の話題に進んでいきやすくなるでしょう。

次に、返報性の法則について紹介しましょう。
アリゾナ州立大学名誉教授 心理学者のロバート・B・チャルディーニ博士の名著「影響力の武器」で紹介されました。
返報性の法則(返報性の原理)は数種類ありますが、今回は「好意の返報性」「自己開示の返報性」についてです。

『部下の育成に心理学を応用する Part1』でも触れましたが、部下に期待し好意をもって対応すると、部下からも好意を受けることになります。
受けた「好意」を返したいと思う心理を「好意の返報性」と言います。
人は恩を受けるとその恩に応えようとします。

例えば、上司が出張でお土産を購入し、チームに配り、皆で美味しく歓談ができたとすると、部下は「出張のチャンスがあったら自分も購入しよう」という心理が働くことも好意の返報性です。
難しい案件で上司のサポートがあったとき、自分も上司の役に立ちたいという心理も返報性に由来します。

また、対話においては、「自己開示の返報性」という心理があります。
上司が「若気の至り」や「過去の失敗談」「家族とのエピソード」を自己開示すると、「自分も話してみようかな。」と自己開示に対してのハードルが低くなります。

留意点としては、話しても否定されたり、馬鹿にされないという心理的安全性を上司やチームが担保することが大前提ですので、部下の自己開示がなされた時には、否定や評価のコメントはせず、話してくれたことに感謝の気持ちを忘れずに聴くことが大切です。

部下との対話を楽しみ、成長や育成に生かして頂ければと思います。

 

 

筆者:産業カウンセラー
2021/12

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