こころとからだの健康
メンタルヘルス ~幸福感と不安遺伝子~
「あなたは幸せですか?」と聞かれたら、皆さまはどのように答えますか?
2012年から開始した「世界幸福度ランキング」は、毎年3月20日の「国際幸福デー」にランキングが発表されます。
2022年の結果では、日本は54位でした。この順位は、先進諸国の中では最低順位となっており、残念な結果です。
幸福度を数字で測ること自体が難しいと思うのですが、内閣府が実施した「生活満足度調査」によると、日本人の総合的な生活満足度は、全体の平均が 5.76という結果でした。
日本はインフラも整備され、治安も高く、GDPも高い水準を保っています。
それでも日本人の幸福度、生活満足度の実感は、欧米諸国と比べ低いのでしょうか。
もしかしたら、この結果には、文化的側面やその他の理由もあるかもしれません。
少し心理学的側面から紐解いていきたいと思います。
安心、満足の対極にあるのは、「不安」です。
実はこの不安の感じ方には、脳の中にあるセロトニンが関係しています。
セロトニンは不安や緊張、気分に影響します。セロトニンが不足するとうつになりやすく、不安を感じやすくなると言われています。
脳の中で分泌されたセロトニンを再取り込みするたんぱく質をセロトニントランスポーターと言いますが、このセロトニントランスポーターの数を多く持つ人とそうでない人がいます。
多く持つ人は「L(ロング)」型の遺伝子、少なく持つ人は「S(ショート)」型の遺伝子です。「S」は不安遺伝子と言われ、「L」は楽観遺伝子と言われています。
このLとSの組み合わせで不安を感じやすいか、楽観的であるかが分かれます。
遺伝子の組み合わせは「LL」「SL」「SS」の3種類があり、この組み合わせは人種によって割合が異なることが分かってきました。
「S」型遺伝子保有は、日本人では80.25%、アメリカ人44.53%、南アフリカ人27.79%であり、人種での違いが大きいことが分かります。
不安遺伝子である「S」を2つ持つ「SS」型を最も多く持つ民族は日本人と言われ、全体の68.2%です。アメリカ人の「SS型」は全体の18.8%ですから、国民性の特徴の違いがお分かりいただけるかと思います。
セロトニンを多く作る「LL」型遺伝子を持つ人は、ストレスを感じる状況に置かれても気分が安定しており、前向きな人が多いと言われています。アメリカ人の「LL型」保有は32%で、人口の3人に1人は楽観的な人たちと言えます。
セロトニンは不安感を抑え、楽観性に影響がありますから、国別ランキングの幸福度にも影響があるのではないかと思います。
日本人に「SS」型が多いのは、日本の位置、地形、地質、気象などの自然的条件から、台風、豪雨、豪雪、洪水、土砂災害、地震、津波、火山噴火などによる災害が発生しやすい国土となっていることが影響しているのでは、と説を唱える学者がいます。
世界の災害被害総額のうち、日本は20%の割合を占める過酷な自然環境があります。この厳しい自然環境だからこそ、日本人は不安遺伝子を活用し、災害に対して長年対処し続け、常に備え適応してきたと言えるかもしれません。
日本人は、自己主張することが少なく、新奇性の追求には慎重です。損害回避能力に優れているため、無茶な行動に走ったり、一か八かの挑戦をすることは少ない民族です。
楽観性が高く「何かあってもどうにかなるさ」「そんな悪いこと起きやしないさ」という遺伝子では、自然災害に対して対処ができなかったでしょう。
この「L」型、「S」型の遺伝子は、単純にどちらが優れているか、ということではありません。
もし、このコラムをお読みのあなたが、「自分は心配性で不安を感じやすいから「SS」型遺伝子の持ち主かも」と思ったとしても、性格は後天的に変えられるという研究もあります。
また、持って生まれた遺伝子が変えられないとしても、考え方や行動は状況に応じて変えられると言われています。
年齢や環境、役割性格など、その時々の状況に合わせ、私たちは求められる、必要とされる性格を身につけることができるでしょう。
近年では、マインドフルネスや呼吸法、漸進的筋弛緩法など、リラクセーションで緊張を軽減する方法も多く紹介されています。
不安を軽減し、幸福を感じられる瞬間を自ら作り出していくことは可能なのです。
参考:内閣府 防災ページ
https://www.bousai.go.jp/kaigirep/hakusho/h18/bousai2006/html/honmon/hm01010101.htm
精神保健研究 第26号 平成25年
https://www.ncnp.go.jp/nimh/pdf/kenkyu59.pdf
望まなくとも私たちの性格は常に変化する:研究結果
https://wired.jp/2013/01/17/personality_changing/