こころとからだの健康
職場のメンタルヘルス ~バーンアウトとボアアウト~
バーンアウトという言葉はご存じの方も多いかと思います。
『それまでひとつの物事に没頭していた人が、心身の極度の疲労により燃え尽きたように意欲を失い、社会に適応できなくなること。』
1974年に精神心理学者のハーバード・フロイデンバーガーが初めて用いた造語で、日本では「燃え尽き症候群」と呼ばれています。(厚生労働省 e-ヘルスネット)
こうしたバーンアウトの反対語として耳にするようになったのが「ボアアウト」(退屈症候群)です。この言葉は、2007年にスイスの企業コンサルタントであるピーター・ワルデルとフィリップ・ロスリンが共著「診断 ボアアウト」で発表したことが始まりでした。
さらに、この言葉が広く知られるようになったきっかけは、フランスの香水メーカーが従業員に対して単調な仕事しか与えなかったことを理由に労働審判にかけられ、最高裁は『ボアアウトは「モラルハラスメント」に値する』として、企業に対して多額の損害賠償を命じたことです。
ボア(Bore)は、英語の boring≒退屈 を意味する言葉から生まれました。
日本でも「退屈で死にそうだ」という言い方がありますが、職場で日々、新しいことに挑戦することもなく、過小な業務しか与えられない、単調で刺激のない状況が恒常的に継続する「退屈な状態」は、ボアアウトとは正反対のバーンアウトと似た症状を引き起こすと言われています。
ストレスや欲求不満が溜まり、気力の低下、疲労・倦怠感、自己評価の低下、不眠やうつ状態に至ることもあると言われています。
出典:島津(2010,2014a)を基に筆者が作成
ワーク・エンゲイジメント
近年着目されている概念に「ワーク・エンゲイジメント」があります。
ワーク・エンゲイジメントはオランダのSchaufeli 教授らが提唱、以下の3つが揃った状態として定義されています。
①「活力」仕事から活力を得ていきいきとしている
②「熱意」仕事に誇りとやりがいを感じている
③「没頭」仕事に熱心に取り組んでいる
仕事を行う中で、バーンアウトやボアアウトと対極であるワーク・エンゲイジメントは、どのような工夫で得られるのでしょうか。
ジョブ・クラフティング
ワーク・エンゲイジメントを高める方法として、個人が自ら工夫するやり方に「ジョブ・クラフティング」があります。
ジョブ・クラフティングの理論は米国のエイミー・レズネスキー准教授とジェーン・E・ダットソン教授が提唱しました。
ワーク・エンゲイジメントの研究者である慶応大学 島津明人教授らが作成した「ジョブ・クラフティング研修プログラム 実施マニュアル」によると、「ジョブクラフティングをしている人の方が、仕事への活力度が高く、心理的なストレスが低く、健康やパフォーマンスにも良い影響がある と報告されている」とあります。
ジョブ・クラフティングは自分の働き方を3つの視点から修正、見直しをすることで、主体性を引き出す手法です。
ジョブ・クラフティングの3分類
①作業クラフティング
仕事の中身が充実するような、自分の作業がしやすくなるような、やり方の工夫
例:スキルアップを目指して勉強する。作業時間配分や優先順位を見直す
②人間関係クラフティング
周囲とのかかわり方を調整して、自分の働きやすさや仕事のやりがいを高める工夫
例:先輩や同僚など縦横斜めの関係の人たちと積極的に関わる。コミュニケーションを活性化する
③認知クラフティング
自分の仕事の目的や意味を捉えなおす
例:自分の仕事の意味づけを捉えなおしたり、社会に与える影響を改めて見直す
こうしたジョブ・クラフティングを進めるうえで、京都大学経営管理大学院の関口 倫紀教授らによるジョブ・クラフティング尺度を参考としてお伝えします。
ジョブ・クラフティング尺度(Sekiguchi, Li, & Hosomi, 2017)
タスククラフティング
1. 仕事をしやすくするために必要な作業を追加したり不必要な作業を減らしたりする
2. 必要と感じれば新たな作業を自分の仕事に加える
3. 仕事の中身や作業手順を自分が望ましいと思うように変更する
関係クラフティング
4. 仕事を通じて積極的に人と関わる
5. 仕事を通じて関わる人の数を増やしていく
6. 仕事で関係する人々の状況を把握し、相手の便宜をはかる
認知的クラフティング
7. 自分の担当する仕事を見つめ直すことによって、やりがいのある仕事に見立てる
8. 自分の担当する仕事を単なる作業の集まりではなく、全体として意味のあるものだと考える
9. 自分の担当する仕事の目的がより社会的に意義のあるものであると捉えなおす
ご自身の今の状況を見直し、3つの視点、9つの項目のどのクラフティングから始めたらよいか、何を足すと今より「不快」な状態が減り、「快」の状態が増えるか、お考えいただくヒントになれば幸いです。
参考:
参照:厚生労働省 第3節「働きがい」をもって働ける環境の実現に向けた課題について
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/19/dl/19-1-2-3_03.pdf
ジョブ・クラフティング尺度
http://hrmstudy.com/ja/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%96%E3%83%BB%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%83%95%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%82%B0%E5%B0%BA%E5%BA%A6/