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「シニア世代」の人たちと働く~5つの世代が共存する働き方について考える~
現在、労働人口の減少による労働力の確保は企業において喫緊の課題となりました。
政府は、この流れに歯止めをかけ、「一億総活躍社会」の実現に向けての取組を行っています。
その具体化として、多様性を重視したダイバシティから、採用した人材の個性を尊重し、孤立を避け、補完しあい、互いを受け入れていくインクルーシブな組織を目指す「働き方改革」が進められています。
継続雇用制度導入が盛り込まれた「高年齢者雇用安定法」によって、企業は65歳までの雇用確保措置が義務付けられ、定年を迎えた従業員に対する勤務延長制度や再雇用制度の導入など、さまざまな取り組みが行われています。
若年労働者の採用や定着が難しい企業であればあるほど、勤務延長制度を導入することで安定した労働力を確保することができると言えるでしょう。
シニア労働者を上手く使えるか、ということが、今後の企業における生存戦略の鍵になってくると思われます。
現在、労働人口に占めるシニア労働者の割合も急速に増加し、定年延長、再雇用制度の中で、多くの方が就業しています。
1950年~1964年生まれの「しらけ世代」(現在56〜70歳)はもちろんのこと、1965年~1970年生まれの「バブル世代」も現在50〜55歳であり、雇用労働者全体のうち50歳以上の高年齢労働者の占める割合は約3割となりました。
今後、総人口が減少する中 で高齢化が一層進展し、2060 年には 39.9%と約5人に2人が 65 歳以上の高齢者になると見込まれています。(図表1)
こうした社会状況の中、シニア労働者の就業促進に伴い、継続雇用年齢や定年年齢の引上げを進めていくためには、環境の整備はもちろん、メンタルヘルスを含めた健康管理についても働きかけ、一定の配慮をすることが企業には求められるようになりました。
定年年齢に達したシニア従業員は年齢も高齢となり、体力の低下やモチベーションの維持が難しくなることは否めません。若い時と違い無理は効かなくなりますし、健康上の問題が色々と増えていくのが一般的です。
中央労働災害防止協会の調査によると、労働災害 平成 27 年の労働災害(休業4日以上)の発生件数のうち、「50 歳以上」 は 46%と全体の約半分を占めています。 この中でも、特に「60 歳以上」は23%であり、労働災害全体の発生件数は平成元年の 216,118件から平成 27 年には 116,311件と約半分に減少している中で、「60 歳以上」だけは件数が減少してはおらず、逆に、全体に占める割合は平成元年の 12%から 23%へと倍増しています。
更に中央労働災害防止協会の調査によると、加齢に伴う身体的・精神的機能の低下が特に顕著なのは、「視力」「薄明順応」など「視覚に関する項目」、「聴力」、「皮膚振動覚」、「平衡機能」、「夜勤後体重回復」などであり、知覚・感覚に関する項目、夜勤後の回復などの全身的な項目において機能の低下が著しいことが特徴であるとの結果です。
シニア労働者を雇用するには、当事者だけではなく、一緒に働く従業員、管理監督者への教育も大切になります。加齢に伴う心身機能の低下、新しい機械・技術への対応、若年労働者とのコミュニケーションのあり方等を考慮し、作業方法の改善、健康の保持増進、快適な職場環境の形成、安全衛生教育の実施などの対策に取り組み、互いに補完ができる環境つくりが必要でしょう。
厚生労働省は、『「高年齢労働者に配慮した職場改善マニュアル」~チェックリストと職場改善事項~』を作成し、公表しています。
この「高年齢労働者に配慮した職場改善事項」は、特定の障害を持たない50歳以上の労働者を対象として推奨されるべき改善事項を示したものです。
加齢は持続性の筋力や最大酸素摂取量、視力、聴力といった身体生理機能の低下を生じ
させますが、その度合いには個人差が大きく、また、個人が感じる負担やストレスには多くの要因が関連しています。
ここに示す改善事項は、個人別能力を踏まえたものではなく、多くの50歳以上とりわけ60歳代の作業者が無理なく就業できるものとして、改善が望まれる事項を示したものですのでご留意の上、活用してください。
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/dl/0903-1a.pdf
シニア世代と協働するための、教育項目として取り組んでいきたい項目として、
①世代間ギャップを埋めるコミュニケーション研修
②シニア世代の加齢による変化の理解促進のための、当事者向けセルフケア研修
③労働災害防止対策、安全衛生教育の実施
④治療と仕事の両立支援
など
さらに職場環境改善として、
①高年齢労働者に多い転倒・腰痛等の労働災害防止対策への取り組み
②作業負荷を軽減する対策
③聴覚、視覚環境の整備
④重量物の取り扱い
⑤多様な勤務体系の導入
など、それぞれの企業に合わせた取り組みを行い、様々な世代と安全に働ける環境を作ることは、人材確保、知恵の伝承、生産性の向上、多様性を認める職場つくりに役立つものと思います。
筆者:産業カウンセラー
2022/01
参考:高年齢労働者の活躍促進のための 安全衛生対策 - 先進企業の取組事例集 -
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11300000-Roudoukijunkyokuanzeneiseibu/0000156037.pdf
高年齢労働者に配慮した 職場改善マニュアル ~チェックリストと職場改善事項~
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/dl/0903-1a.pdf
高年齢者雇用安定法 改正の概要 ~70歳までの就業機会の確保のために 事業主が講ずるべき措置(努力義務)等について~ 令和3年4月1日施行
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000694689.pdf