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いますぐ取り組むパワーハラスメント対策。「パワハラ防止法」対応のポイントも解説!!①

2021/08/26
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■目次

2022年から中小企業にも対策が義務化 ―社内規程の整備と相談窓口の設置から―

全4回シリーズでお届けします!
(1)2022年から中小企業にも対策が義務化 ―社内規程の整備と相談窓口の設置から―
(2)法の対象はどこまでか ―判断の難しい「パワハラの範囲」とは―
(3)事後対応の流れを知る ―被害の相談が寄せられたら―
(4)効果的なパワハラ防止 ―よりよい職場環境に向けて―

いよいよ中小企業に適用される「パワハラ防止法」

こんにちは、弁護士の西園寺直之です。皆さんの職場、パワハラ対策は進んでいますか?

2020年6月1日に「パワハラ防止法」が施行され、職場におけるパワーハラスメント防止対策が企業に義務づけられました。中小企業(中小事業主)には猶予があり、努力義務でよいとされてきましたが、2022年4月1日よりすべての企業で義務化となります。

中小企業 (中小事業主) は、 以下の①または②のいずれかを満たすものをいう

業種 ① 資本金の額 ② 常時使用する従業員の数
小売業 5,000万円以下 50人以下
サービス業
(サービス業、医療・福祉等)
5,000万円以下 100人以下
卸売業 1億円以下 100人以下
その他の業種
(製造業、建設業、運輸業等
上記以外すべて)
3億円以下 300人以下

* 参考: 中小企業基本法の中小事業主の定義について (中小企業庁)
https://www.chusho.meti.go.jp/soshiki/teigi.html

参考:中小企業基本法の中小事業主の定義について(中小企業庁)

いままで対策をしてこなかった企業も、全面的な義務化に向けて準備を迫られていることでしょう。手始めに何から取り組めばよいのか、パワハラ防止法のポイントをふまえて解説します。

「パワハラ防止法」の適用範囲

パワハラ防止法は、雇用形態を問わず、事業主が雇用するすべての労働者に適用されます。
つまり、以下の雇用形態の労働者すべてが、パワハラ防止法の保護対象となります。

・正社員
・パート・アルバイト
・契約社員
・派遣社員
・インターンシップ生

なぜすべての雇用形態に適用されるのか?
パワハラは、正規雇用だけでなく、非正規雇用など、あらゆる雇用形態の労働者に発生する可能性があります。そのため、すべての労働者が安心して働ける環境を作るために、法によって保護の対象としているのです。

パワハラ防止法が適用される範囲
パワハラ防止法は、職場内だけでなく、業務に関わる場所であれば、どこでも適用されます。たとえば、出張先や社外での研修などでも、パワハラが発生すれば、法に違反することになります。

「パワハラ防止法」という法律はない?

職場におけるパワハラは、個人の尊厳や人格を傷つける人権侵害であり、生産性や社会的評価の低下により企業経営を阻害するリスクであり、また、働く人のメンタルヘルスに影響を及ぼす重大な健康問題でもあります。

しかし、男女雇用機会均等法および育児・介護休業法により、セクシュアルハラスメントとマタニティハラスメントの防止対策が企業に義務づけられている一方で、これまでパワハラについては制度がありませんでした。
2016年度の厚生労働省の実態調査では、過去3年以内に職場でパワハラを受けたことがあると回答した人が実に32.5%にのぼり、パワハラ対策は行政の喫緊の課題といえました。

そこで今回、新たにパワハラ防止の施策を盛り込んだ立法として、労働施策総合推進法(正式には「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」)が改正された、というのが経緯です。
この改正について報道等が「パワハラ防止法」と呼ぶようになり、改正された労働施策総合推進法を指す通称として定着しました。

最新の2020年度の調査では、過去3年以内に職場でパワハラを経験したと回答した人は31.4%、 セクハラは10.2%、 顧客等からの著しい迷惑行為 (いわゆるカスハラ)は15.0%となっています。

*全国の20~64歳の男女労働者 8,000名を対象とした、 厚生労働省の令和2年度
「職場のハラスメントに関する実態調査」
(東京海上日動リスクコンサルティング(株)令和3年3月発表)より
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000775817.pdf

「パワハラ防止法」の2つのポイント

法改正のポイントは2つです。
1つ目は、企業に対し、職場のパワハラ防止のための雇用管理上必要な措置を講じる義務を定めたことです。法的義務の具体的な内容は、厚生労働省が公表した指針(通称「パワハラ指針」)に示されています。

2つ目は、パワハラの定義を我が国で初めて法律に定めたことです。
パワハラの定義が明確でないと、パワハラ防止対策の対象がどこまで及ぶのかが確定できません。パワハラの定義・範囲についての理解がとても重要になります。

1. 企業(事業主)の方針の明確化と周知・啓発
・パワハラの内容、パワハラを行なってはならない旨の方針の明確化と周知
2. 相談や苦情に応じ、適切に対応するための体制の整備
・相談窓口の設置と労働者への周知
相談窓口担当者が内容や状況に応じて適切に対応
3. 職場におけるパワハラへの事後の迅速かつ適切な対応
・事実関係の迅速かつ正確な確認
・被害者に対する速やかな配慮のための適正な措置
・行為者(加害者とされる者)に対する適正な措置
・再発防止に向けた措置
4. 1から3と併せて講ずべき措置
・相談者・行為者等のプライバシー保護
・相談や調査協力等を理由に不利益な取扱いをされない旨の定め など

事業主が講ずべき雇用管理上の4つの措置

では、企業は具体的に何を行えばよいのでしょうか。パワハラ指針では、パワハラ防止のために雇用管理上講じることが必要な措置として、次の4つが示されています。

1. 企業(事業主)の方針の明確化と周知・啓発
・パワハラの内容、パワハラを行なってはならない旨の方針の明確化と周知
2. 相談や苦情に応じ、適切に対応するための体制の整備
・相談窓口の設置と労働者への周知
相談窓口担当者が内容や状況に応じて適切に対応
3. 職場におけるパワハラへの事後の迅速かつ適切な対応
・事実関係の迅速かつ正確な確認
・被害者に対する速やかな配慮のための適正な措置
・行為者(加害者とされる者)に対する適正な措置
・再発防止に向けた措置
4. 1から3と併せて講ずべき措置
・相談者・行為者等のプライバシー保護
・相談や調査協力等を理由に不利益な取扱いをされない旨の定め など

すぐにできるのは社内規程の整備と相談窓口の設置

さて、これら4つの措置にこれから対応しようとする企業において、すぐに対策が可能なのはどれでしょうか。
3は事例発生後の問題であるため、パワハラへの事後の迅速かつ適切な対応といっても、一朝一夕に実現できるものではないと考えられます。弁護士その他の専門家の支援を得ながらケースごとに真摯に対応し、担当者の熟練や体制・運用の改善を重ねていくほかありません。
一方で、1と2は事前の措置になるため、比較的容易に着手できるはずです。

2020年度の企業調査では、 雇用管理上の措置の実施状況につき、 回答企業の約8割が、「方針の明確化と周知・啓発」 と 「相談窓口の設置と周知」を実施していると回答しています。
事前の取組みとしてこの2つが着手しやすかったのだとうかがえる結果です

*全国の従業員30人以上の企業・団体約6.500ヶ所を対象とした、 前述の厚労省の令和2年度
「職場のハラスメントに関する実態調査」より
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000775817.pdf

社内規程の整備

1の「企業(事業主)の方針の明確化と周知・啓発」では、
・パワハラを行なってはならない旨の方針を就業規則などの社内規程に盛り込み、社内全体に周知・啓発すること
・方針を社内報やパンフレット、社内ホームページに掲載して広報すること
・パワハラの内容や発生原因などについて研修を実施すること
・パワハラ行為者に厳正な対処をするために、あらかじめ懲戒規定を定めておくこと
などを要します。

社内規程にこうした規定があるかどうかは、労働局・労基署から真っ先に調査される事項と考えられます。社内規程の整備は早めに対応することが望まれます。

この点、パワハラ指針を解説している厚生労働省のパンフレットには、
・就業規則に委任規定を設けた上で、詳細を別規定に定める例
・どのような言動がどのような処分に相当するかを記載した懲戒規定の例
など、すぐに活用できる規定例が複数示されていますので、大変参考になります(2020年2月に公表したパンフレット(「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」)。
対応に不安があるようなら、弁護士や社労士などの専門家の支援を仰ぎやすい項目ですので、規定例を挙げながら相談してみるとよいでしょう。

相談窓口の設置

次に2の「相談や苦情に応じ、適切に対応するための体制の整備」では、まず相談窓口を設置することが必要となります。これもまた労働局・労基署の調査対象になりやすい項目だと考えられます。

パワハラ指針では、相談窓口の設置と認められる例として、
・相談に対応する担当者をあらかじめ定めること
・相談に対応するための制度を設けること
・外部の機関に相談への対応を委託すること
の3種を挙げていますので、いずれかの方法で早めに対応するとよいと考えられます。

相談窓口の設置には、多くの場合、人事労務や総務などの部署が担当することになるでしょうが、相談対応にはかなりのノウハウを要します。
相談者への傾聴や、相談内容に応じた臨機応変な対応などの多様な技術が求められ、また、二次被害(相談者が相談窓口の担当者の言動によってされに被害を受けること)を防止する必要があるなど、配慮を要する点がたくさんあります。何より、労働者にとって安心して相談できるような窓口にすることが重要になります。

規模の小さな企業であればあるほど、相談対応に割ける人的・物的リソースが限られますので、相談対応の経験が豊富なEAPなど外部機関への委託を検討してみてもよいでしょう。かえってコストの削減につながる可能性があります。

措置を講じなかった場合の法的責任

以上のような考えから、「パワハラ防止法」対応の取組みとして、社内規程の整備と相談窓口の設置にはすぐにでも着手すべきでしょう。

仮にこれらの措置を講じなかったとしても、義務違反の点につき罰則が課せられることはありません。「パワハラ防止法」では、行政指導・勧告の対象となるか、悪質な場合に企業名を公表できるとされているだけです。

しかし、法的責任を広く捉えると、パワハラの放置により労働者が精神障害に罹患した場合に職場環境配慮義務を怠ったとされるなど、企業は民事上の損害賠償責任を負うおそれがあります。近年の裁判例では、法人としてのみならず、取締役個人の責任も問われるようになってきました。

こういった法的責任・リスクをふまえれば、表面上の「パワハラ防止法」の遵守では不足があります。ひととおりの体制を構築したあとは、起こってしまった事例への対応や再発防止を充実させて、積極的なパワハラ防止対策を進めていきたいところです。

 

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筆者:弁護士 西園寺直之
作成:2021/8

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