経済産業省は、仕事をしながら家族の介護に従事する、いわゆる「ビジネスケアラー」を取り巻く諸課題への対応として、より幅広い企業が両立支援に取り組むことを促すため、企業経営における仕事と介護の両立支援が必要となる背景・意義や両立支援の進め方などをまとめた企業経営層向けのガイドラインを公表しました。
◆企業が取り組むべき事項をステップとして具体的に提示(経済産業省)
ガイドラインは、企業における仕事と介護の両立支援を先導していくことが期待される経営層を対象にしたものです。
経済産業省は、取り組むべき事項を大きく3つのステップで示しています。
ステップ1 経営層のコミットメント
仕事と介護の両立支援において全社的に取り組む意向を示す
□経営者自身が知る
□経営者からのメッセージ発信
□推進体制の整備
経営者が、介護に対する理解を深め、ビジネスケアラーの離職予防に向けてのサポート体制を構築し、全従業員に向けた意識の醸成を図ることが求められます。
ステップ2 実態の把握と対応
組織内での仕事と介護の両立における影響・リスクを把握
□アンケート・聴取
□人材戦略の具体化
□適切な指標の設定
介護は個人的な問題として抱え込んでしまうことが多く、実態数と把握にはギャップが生じるものです。けれども、介護問題は個人の問題から今や経営問題となっています。
社内におけるビジネスケアラーを把握し、介護を担う従業員が活躍できるよう、具体的な指標を設定し、戦略を立てることが大切です。
ステップ3 情報発信
企業がプッシュ型の情報発信を行うことで、従業員個人の将来的なリスクを低減
□基礎情報の提供
□研修の実施
□相談先の明示
これまで介護に関する研修のスタート時期として、介護保険料納付が始まる40歳、親の年齢が65歳となり前期高齢者となることをきっかけに実施することが一つの目安となっていましたが、今後は全社員のリテラシーの向上を後押しすることが大切です。
また、社内での相談先・プロセスを明示し、利用できるよう発信します。
+(プラス)企業独自の取組の充実
企業の実情・リソースに応じて検討・実地
□人事労務制度の充実
□個別相談の充実
□コミュニティ形成
□効果検証
育児介護休業法において義務付けられている措置に加え、それぞれの企業の業種、実情に合わせた独自の取組を検討していきます。
また、介護に当たっては、要介護者の状態や地域性など様々な要因が加わり、個別性の高いものが多く、定例的な対応ではニーズに応えられない困難さがあります。従って両立をサポートする上では、個人ごとに調整をする必要が出てきます。そこで、例えば、専門家を有する社外窓口の設置などで具体的に両立支援相談を可能にする、また、ファイナンシャルプランナーへの相談で、介護とお金の相談を可能にするなどで充実を図ります。
(「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」について (METI/経済産業省)
介護問題は、「個別の課題」から「みんなの話題」へ
少子高齢が進み、生産年齢人口の減少が続く中で、ビジネスケアラーの数は増加傾向です。今後、介護に起因した労働総量や生産性の減少が日本の労働損失に有する影響は甚大となります。
経済産業省「2022年企業活動基本調査速報」によると、ビジネスケアラー発生による経済損失額は2030年時点で約9兆円に迫ると推計しています。
介護問題は、企業経営において喫緊の課題になりました。
ビジネスケアラー発生に伴う諸課題への対応を後回しにせず、離職予防による労働損失を未然に防ぎ、介護と仕事の両立を支える体制づくりを始めましょう。
筆者:セーフティネット産業カウンセラー、公認心理師